『優雅な読書は最高の復讐である』山崎まどか(DU BOOKS)★★★★☆

 2004年以降の書評エッセイを中心に編まれた作品集です。

 冒頭からではなくまずは岸本佐知子との対談から読みました。「女子にお勧め」というテーマなのに全然そんな感じじゃなくて笑えます(^^;。読んだことのあるのは『世界の涯まで犬たちと』とハムルス作品と『淑やかな悪夢』と『溺れる人魚たち』と『青い城』。けっこう読んでた。極限状態の中で描かれる幻想『雪男たちの国』と、あらすじだけではリアルなのかファンタジーなのかよくわからない『宇宙飛行士オモン・ラー』が面白そう。

 巻頭の書評に戻る。ナボコフ『ロリータ』について、ファッション面からドロレスを考察しているのは著者ならではで、こういう文章が巻頭にあるとやはりインパクトがあります。

 ピンクのページはブログ日記「Romantic au go ! go !」から、本に関する記事をチョイスしたもの。なので音楽やファッション関連は収録されていませんが、Those Dancing Daysを知ったのもこの日記の前身記事でした。当然ながら少女文学の記述が多い。聖女像の拒否とその先を描いた多和田洋子『聖女伝説』は読んでみたい。片岡義男『少女時代』は片岡節を評する山崎まどかの文章が面白い。ピーター・ディキンスン『キングとジョーカー』を「少女小説」として評価していて、そういう側面からまた読み返してみたくなります。書店におすすめ小説のリクエストをして書店ランキングをつけるという海外の企画が面白い。読んでみたいとは思わないけどサイモン・リッチ『Ant Farm』の見栄っ張りオタクぶりが笑えます。ゆまに書房の「新興芸術派叢書」と「新鋭文学叢書」に収録されている久野豊彦や中村正常などが気になります(p.79)。George Lois『Damn Good Advice』は広告業界の大物による自己啓発本。啓発内容よりむしろアートワークに惹かれます。

 「新乙女クラシック10冊」には、当然のことながら乙女でなくとも楽しめるラインナップが並んでいます。モンゴメリ『青い城』は昔読んで「話はどんどん面白くなってく」前に挫折してしまったような気がします。ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』が、「一番笑えるオースティンの小説」と紹介されています。「『乙女の暗黒趣味』のツボをよく心得ている」創元推理文庫からは、『ずっとお城で暮らしてる』『淑やかな悪夢』『黒いハンカチ』の3冊がランクイン。柚木麻子『ねじまき片想い』に『浅草紅団』が登場していた川端康成は『乙女の港』がエントリー。皆川博子『倒立する塔の殺人』は理論社のミステリーYA!というシリーズで出ていたジュヴナイルなので、乙女にぴったりなのも当然でしょうか。

 タオ・リンの項目に書かれていた、「甘ったれている。ふざけるな。意味が分からない。新しい青春小説にとってそれらは賛辞の言葉だが」という評が、賛否どちらにとっても的確。

 時間SFアンソロジー『時の娘』に合わせて、トム・リーミィ「サンディエゴ・ライトフット・スー」、映画『三つの恋の物語』の一篇「マドモワゼル」が紹介されています。

 女性の自伝的小説ブームについて、「「バッド・ガールズ・メモワール」を書く少女たちは、作家というより一種の女優なのだ」という一言が鋭い。

 ここで紹介されていなければ興味など持たなかったであろう『マーヤの自分改造計画』というノンフィクション。「五〇年代的な価値観で書かれた本のアドバイスに律儀に従うなんて明後日な方向のアプローチを試みた彼女は、普通の人気者街道から外れていく。当たり前だ。」。こんなことを書かれて気にならないわけがない。

 獅子文六に関する文章はちくま文庫『青春怪談』の解説をそのまま掲載。

 ケリー・リンクミランダ・ジュライやシャーロット・ギルマンの名まで挙げられ、「著者名を伏せられていたら(中略)、また岸本佐知子が見つけてきて翻訳した英語圏の面白い女性作家の短編集なのだと私は思い込んでいたに違いない。」と評されるのは、何と本谷有希子『嵐のピクニック』です。岸本佐知子が訳したような作品というだけなら惹かれなかったかもしれませんが、その著者が本谷有希子となるとギャップで惹かれざるを得ません。

 レベッカ・ブラウン『若かった日々』や森見登美彦夜は短し歩けよ乙女』なども。

 黄色いページは「気まぐれな本棚」。ここでもジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』を、「ゴシック小説に夢中のおっちょこちょいなヒロインが古い屋敷に招かれて、そのたくましい妄想力のせいで色々と失敗をするお話」と紹介しています。ほかに『ティファニーで朝食を』『溺れる人魚たち』『血液と石鹸』『村のエトランジェ』『幼女と煙草』など。柚木麻子『終点のあの子』も紹介されてました。赤染晶子乙女の密告』は、「女子だけの息苦しい世界と、彼女たちが学ぶ『アンネの日記』がシンクロしていく、とても緊迫感のある小説」。芥川賞直木賞には興味がないのでノーチェックでした。ディクスン・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』を「乙女ミステリー」と評せるのは著者だけでしょう。ほかにカヴァン『アサイラム・ピース』やオーツ『とうもろこしの乙女』など。『McSweeney's』の第49号のカバー特集が読みたい。デュ・モーリア「いま見てはいけない」と『赤い影』の文章は『いま見てはいけない』の解説より。

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 優雅な読書は最高の復習である 


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