ガンバ三部作の著者による新作です、が……。
夭逝した息子に託して少年時代の自分を省みるという、あまりにも私的すぎる内容でした。
父親世代の少年時代と現在の時代を行き来するタイム・ファンタジーなのですが、描かれる過去がまったくといっていいほど魅力的ではなく、哲夫の側に過去へ移ろってしまうような悩みなり事情があるわけでもなく、父親世代のけじめに息子が付き合わされるというどうしようもなく迂遠な手法が採られていました。
あとがきや解説でも触れられているフィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』と比べてみれば、本書に登場する“ヒロイン”みどりが過去の人間ではなく哲夫と同じ時代の人間であるのは象徴的ではないでしょうか。ここには過去への憧憬も幻想もありません。あろうことか哲夫とみどりは、目の前に現れたのが若き日の父親であり母親であると認識したうえで対峙しています。
そのうえ本書の中心となるのは、もう一人のヒロイン順子《なおこ》のトラウマや、哲夫の父親が経験した生き物のエピソードなど、言ってみれば古い世代の人間の過去と現在と未来でした。
何というか、父親母親世代が我が子に自分のことをわかってほしいという願望を描いた、けったいなファンタジーでした。
小学校最後の夏休み、哲夫は父の故郷長岡へひとりで向かった。列車で隣り合わせた女性と話すうちに、不思議なことが次々と起きる。長岡で春風に誘われるように古い屋敷にたどりついた哲夫は、見知らぬ少年とおばあさんに出会う。/哲夫は同い年の女の子みどりとともに長岡の町をめぐる。ゆかりある人びとや不思議な光景にみちびかれながら、しだいにふたりは家族の過去と向き合うことになる。早春の長岡を舞台に少年の心の成長を描いたタイム・ファンタジー。(カバーあらすじ)
[amazon で見る]