『コールド・コールド・グラウンド』エイドリアン・マッキンティ/武藤陽生訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★☆☆☆

 『The Cold Cold Ground』Adrian McKinty,2012年。

 1980年代の北アイルランドが舞台の警察小説。たれこみ屋への見せしめ殺人がよくある事件として扱われ、聞き込みすら命がけという、我々にとっては非日常の世界で起こる非日常の殺人は、猟奇的な劇場型殺人でした。

 アイルランドには連続殺人鬼はいない。なぜなら殺したい相手がいればテロリストに頼めばいいから――という警部の皮肉(本音?)を裏切るような、やっかいな事件です。

 アメリカン・ジョーク以上にアイルランド・ジョークがわからないので、警察小説ならではのキャラクター同士のかけあいの面白味が半減でした。

 これに加えて展開のテンポが遅いのと人数の割りには登場人物の描き分けが乏しいのとで、やや散漫な印象を受けます。出番の多い部下のマティとマクビーすら区別がつけづらかったです。

 読み終えてみれば、内紛中のアイルランドという背景を取り除くとかなりの凡作でした。スケールこそ国家規模の大きさとはいえ、事件自体が茶番といっていいしょうもないものだったのにはがっかりです。(個人の犯罪隠蔽のための目くらまし……)。真相にたどり着けたのも犬も歩いて棒に当たっただけですし。

 主人公ショーン・ダフィ巡査部長も行き当たりばったりで思い込みが激しく頭でも足でもなく腕で動くタイプ――警察というよりもハードボイルドの主人公のようですが、そのわりにはダフィ自身にたいした信念も葛藤もありません。プロテスタントが多くを占める北アイルランド警察内でカトリック教徒であるという、いくらでも何かを抱えてそうな存在であるにもかかわらず。それについては恐らくシリーズを通して追々ということなのでしょうけれど。

 訳者あとがきによれば、三作目と五作目は「密室もので、かの島田荘司作品に影響を受けている」というのが意外ですが、島田荘司が社会派推理も書いていることを思えばわからないでもないのかな、とは思いました。

 暴動に揺れる街で起きた奇怪な事件。被害者の体内からはオペラの楽譜が発見され、現場には切断された別人の右手が残されていた。刑事ショーンは、テロ組織の粛清に見せかけた殺人ではないかと疑う。そんな折、“迷宮”と記された手紙が彼に届く。それは犯人からの挑戦状だった!武装勢力が乱立し、紛争が日常と化した80年代の北アイルランドで、ショーンは複雑に絡まった謎を追う。大型警察小説シリーズ、ここに開幕。(カバーあらすじ)

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