『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★☆

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)

 『黄泥街』残雪,1986年。

 残雪のデビュー作。

 幻想というよりはラチガイ。

 マジック・リアリズムというよりは、中国の田舎の現実(の誇張)。

 会話も理屈も成立しないような人々が好き勝手に動き回るというのは、申し訳ないけれど中国という国に対するイメージそのままなのです。偏見ではあるのだろうけれど。

 誰かが突然「王子光」と言った途端に、王子光という人間の存在が既成事実となり、そうかと思えば老孫頭が連行されたことは人々の記憶から消えてしまいます。これをデマと情報統制の諷刺と捉えることもできるのだろうけれど、仮りにそうだとしても、その描写の仕方があまりにもぶっとんでいました。

 太陽に照らされてすべてが腐る――なのに着込んで、背中に虫が湧く。狂った世界のなかで、住んでいる人間も動物もれなく狂っていると、こういう得体の知れない小説になるのでしょう。

 箪笥の上で暮らして妻子に引っぱられて箪笥が揺れる――下品で骨太で野性的なばかりかと思えば、こうしたシュールなエピソードもあるから面白い。

 黄泥街は狭く長い一本の通りだ。空から真っ黒な灰が降り、人々が捨てたごみが溢れる街で、物は腐り、動物はやたらに気が狂う。この汚物に塗れ、時間の止まったような混沌の街で、ある男が夢の中で発した「王子光《ワンツーコアン》」という言葉が、一連の奇怪な出来事の始まりだった。すべてが腐り、溶解し、崩れていく世界の滅びの物語を、奔放な想像力と奇想に満ちた圧倒的な語り/騙りによって描き、世界に衝撃をあたえた残雪の第一長篇。(カバーあらすじ)

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