『仮面幻戯』佐々木俊介(東京創元社Webミステリーズ!)★★★☆☆

『仮面幻戯』佐々木俊介東京創元社Webミステリーズ!

 回想の殺人ものの青春ミステリ『繭の夏』の著者によるWeb連載です。2010年にWebミステリーズ!(→)で連載され、現在のところ書籍化はされていません。長篇ではなく、工芸家藤江恭一郎が作った仮面にまつわる連作短篇集でした。
 

「第一話 訪問者」★★☆☆☆
 ――推理作家の青木謙造の書斎に「もう一人の青木謙造」が現れるようになった。大学時代の青いコートをまとい、青木の顔を写し取った鉄仮面をかぶっていたが、しばらくすると立ち去ってしまう。相談を受けた旧知の時代小説作家・三輪が青木とともに書斎で待機していると、果たして鉄仮面は現れた。青木の妹・澄子によれば、青木には双子の兄弟がいて幼いころ両親に殺されたのではないかと考えているという。

 本格ミステリを期待すると肩すかしを食います。なぜか仮面をかぶっている謎めいたドッペルゲンガーの出現こそ幻想的ですが、その真相が、作品となる出来事を体験したい作家の狂気と認知症というのでは、人生の悲哀は感じられてもミステリのカタルシスは感じられませんでした。
 

「第二話 シンデレラ」★★★☆☆
 ――大道寺家の別荘が火災に見舞われ、娘の美紗らしき女が黒焦げで見つかった。全身火傷、顔には美紗の顔をした鉄仮面。命は取り留めたが記憶を失い、仮面もすぐには外せない。美紗の恋人と称する藍沢が見舞いに訪れ、友人である工芸家藤江が美紗をモデルに仮面と靴を身につけたガラスのシンデレラを制作していたことがわかった。だが仮面と靴は盗まれ、藤江も行方不明だという。自分は恋敵の女に襲われたのではないか……。

 火傷で記憶喪失の娘を語り手に『シンデレラの罠』をやる趣向が嬉しい一篇です。さすがに「私は探偵で犯人で被害者で証人」とはいきませんが、入れ替わり立ち替わり現れる新証言や新事実に二転三転する推理や鉄仮面の正体には、予断を許せずどきどきしました。
 

「第三話 黒百合(前篇)」「第四話 黒百合(後篇)」「最終話 軛」★★★★☆
 ――不慮の事故で顔を喪い、鉄仮面で生活している芸術家がいるという話を聞いて、退屈屋で猟奇者の能登新月は、出版社編集員の白石光に会いに行く。白石の口から藤江恭一郎という名を聞いて新月は驚愕する。十年前、友人同士の旅行中に殺された姉・七海の容疑者だった男だ。現場付近では仮面に黒装束の男が目撃されていた。その姿は藤江が劇団で演じていた「黒百合番太郎」の姿そのままであり、姉が遺した血文字「黒百合番太郎」とも一致していた。

 後半の三話は三つで一つの中篇になっていました。最終話は犯人の告白です。第一話に出て来た作家・青木謙造の編集者・白石光が再登場します。第二話の記憶喪失の娘の正体も、火傷に加えて仮面があるからこそ第三者にも判断できなかったわけですが、この「黒百合」の【人物入れ替わりトリック】も日常的に仮面をかぶっているからこそ成立するトリックでした。【元の文字に書き加えて別の言葉にする】というダイイング・メッセージの処理自体はよくあるものですが、それをこの規模でおこなったのは大胆不敵というほかありません。

    


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