『生か、死か』マイケル・ロボサム/越前敏弥訳(早川書房ポケミス1911)★★★★★

『生か、死か』マイケル・ロボサム/越前敏弥訳(早川書房ポケミス1911)

 『Life or Death』Michael Robotham,2014年。

 あと一日で刑期を終えるという日になぜ囚人は脱獄したのか――? このつかみが何よりも強力でした。

 男は現金輸送車襲撃事件の生き残りで、仲間の一人である兄が大金を持って逃げたと思しいというのに、仲間や大金の行方の心当たりについては一切の口をつぐんでいる理由も気になり、瞬く間に引き込まれました。

 脱獄したオーディ・パーマーの現在、オーディの回想、何者かに脅されてオーディを探す同房のモス・ウェブスター、襲撃事件捜査を引き継いだ小柄なFBI捜査官デジレー・ファーネス、襲撃事件に居合わせた保安官ライアン・バルデス、地元の有力者などの視点が交互に語られ、事件のことがさまざまな角度から少しずつ明らかになってゆきます。

 真性のクズであるオーディの兄カールや、若きオーディが恋したエルサルバドルからの密入国者ベリータ、チビをからかわれるのを発奮材料に叩き上がった捜査官デジレーや、愛妻家(?)のモスなど、個性的で魅力的な人物には事欠きません。

 それでも現在のオーディの行動の理由はなかなかはっきりせず、通りがかりの母子と話をしたり、行きずりの母子と同宿したり、目的があるのかどうかもよくわかりません。

 物語が一気に不穏になるのは、初めにオーディの居所が割れてからでした。

 目の前で信じられないことが起こったと感じました。なぜそんなことになるのかさっぱりわかりませんでした。

 序盤の上院議員との会話から陰謀らしき影は見えていたものの、ここに来て俄然陰謀が真実味を帯びて来ました。

 そして終盤になっていよいよすべてが明らかになるのですが、なぜ脱獄したのかも含めてこれまでのエピソードがすべてぴったり納まり、意外性もあり、サスペンスにそこまで求めていないよというくらい完成度の高いものでした。

 タイトルの意味も明らかになります。オーディには死ねない理由があったのですね。

 鉄格子を模した表紙デザインがダサいのが唯一の欠点でした。

 四名が死亡した現金輸送車襲撃事件の共犯として十年の刑に服していたオーディ・パーマー。奪われた七百万ドルの行方を知るとされる彼は、服役中どれほど脅されても金の在処を吐くことはなかった。時は経ち、出所日前夜。オーディは突如脱獄を果たす。もう一日待てば、自由も金も手に入ったはずなのに……。彼の決断の裏には恐るべき陰謀と悲劇が――スティーヴン・キングが絶賛した著者の代表作! 英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞&アメリカ探偵作家クラブエドガー)賞最優秀長篇賞最終候補(裏表紙あらすじ)

 [amazon で見る]
 生か、死か 


防犯カメラ