『沈鐘』ハウプトマン/阿部六郎訳(岩波文庫)★★★☆☆

『沈鐘』ハウプトマン/阿部六郎訳(岩波文庫

 『Die versunkene Glocke』Gerhart Hauptmann,1896年。

 泉鏡花『夜叉ヶ池』に影響を与えたとして有名な作品ですが、鏡花自身が『夜叉ヶ池』創作以前に『沈鐘』を翻訳しているという事実を知らないと、どこがどう影響を与えているのかよくわからないレベルでした。

 鐘が重要な要素になっている点と、人間界と妖怪界が舞台になっている点くらいしか共通点はありません。水に沈むのも共通点と言えば言えなくもないけれど。

 人間の男が妖精の娘に惚れて婚姻を結び駄目男になってうじうじ囚われるという、ドイツロマン派らしい暑苦しい恋愛観が溢れていました。あちらの幻想譚はローマ神話以来の伝統とでもいうのでしょうか、いくら異界や異類が描かれようとも生々しくて幻想性のかけらもないのは何なんでしょうね。

 鐘とともに湖に沈み瀕死の重傷を負った鋳鐘師ハインリッヒは、妖精のラウテンデラインに助けられます。誰もが褒め称える鐘の音に納得できないのは、人ならざる我々とハインリッヒだけだと老婆ウィッティヘンは言います。ラウテンデラインの魅力に囚われたハインリッヒは、妻マグダや子らも捨ててラウテンデラインと暮らそうとします。ラウテンデラインに横恋慕している水の精(元質の精)ニッケルマンはそれが面白くありません。

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