『忘れられた花園』(下)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫)★★★★☆

『忘れられた花園』(下)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫

 『The Forgotten Garden』Kate Morton,2008年。

 デュ・モーリアの名前が出されているのは、せいぜいのところゴシック・ロマンス風なところがあるからだと思っていましたが、下巻はしっかり『レベッカ』っぽいところから始まります。といっても主人公が前妻の影に怯えるのではなく、当主の妻が当主の妹の影に怯えるというのがひねってます。

 この当主の妻アデリーンというのが、主人公の一人であるイライザから見ても実の娘のローズから見ても敵役なのですが、単なる悪役ではなくかなりクレバーな人なんですよね。自分の立てた計画が若者の恋愛感情というどうにもならないものによって崩壊してしまったときに、娘を翻意させるのではなく相手の男の方を自分の理想に作り上げるという、柔軟な思考も持ち合わせています。

 そしてローズが妊娠します。

 上巻から続いていた謎の一つ、ネルはなぜ連れ去られなぜ置き去りにされたのか――。

 この謎の前半については、少なくとも読者には下巻の前半で答えの一つに見当が付く【※ネルの実の母はローズではなくイライザ】のですが、2005年時点の登場人物たちはかなりあとまで見当違いの推測をしています。見当が付いている読者にはそれがまどろっこしいなあと思うのですが、事実としての結果はともかくとして、そういう結果に納得する登場人物の感情には読者として受け入れがたいものがありました。ローズもイライザもそれでいいのか?と。

 けれどそれに対する解答も、夫その人でなく夫という役割や家族の役割に対するローズの過剰な思い入れや、イライザのローズに対する愛情という形でやがて明らかにされるに至り、納得できずにいたもやもやもすっきり晴れました。本書は一貫して、読み進めながら事実が徐々に明らかになってゆくというスタイルでした。

 イライザの愛情というのが盲点でした。イライザが魅力的な女性として描かれていて、前半では伯父やローズから愛情を向けられているだけに、イライザが愛情を向けられるのではなく愛情を向ける相手にまで想像が及ばなかったからです。過酷な環境で育ち弟を失ったあとの唯一の友人ということを考えれば、推測しうる材料はあったのですが。

 ネルの誕生やネルが置き去りにされた謎の真相が、タイトルにもなっている「忘れられた花園」が存在している理由とも結びついていることがわかって、物語はきれいに幕を閉じます。

 祖母からコーンウォールのコテージを相続したカサンドラは現地へと向かう。1975年に祖母はなぜそのコテージを買ったのか? 今はホテルとなった豪壮な屋敷の敷地のはずれ、茨の迷路の先にコテージはあった。そこでカサンドラは、ひっそりと忘れられていた庭園を見出す。封印されていた花園は何を告げるのか? 祖母は誰だったのか? デュ・モーリアの後継といわれる著者の傑作。(カバーあらすじ)

  


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