『毒薬の輪舞』泡坂妻夫(河出文庫)★★★☆☆

『毒薬の輪舞』泡坂妻夫河出文庫

 1990年初刊。

 小湊刑事が患者として精神病院を訪れるという衝撃的な幕開けで始まりますが、そこはもちろん潜入捜査(?)であることはすぐにわかります。

 まったく開けられていない清涼飲料水の缶のなかに異物を入れることができるか――?

 魅力的な謎です。実は海方のトリックであることが最後にわかるとおり、実際にはサボりたい海方が暇つぶしに小湊を呼び寄せただけだったのですが、まんまと謎におびきよせられ、『死者の輪舞』のコンビが佯狂で入院するという舞台が整いました。

 その後も院内では、誰も近づける者はいなかったのに水筒やコップに何かが入れられる事件が頻発します。

 そしてついに死者が――。

 続いて起こった毒殺未遂事件をきっかけに、海方は真相に到達します。腹黒くてグルメの海方が一流シェフにこっそり夜食を作らせていたというギャグを伏線に、被害者に関する或る事実【※潔癖症】を反転させてみせるのは見事ですし、そこからの怒濤の反転攻勢はユーモアミステリらしい徹底ぶりでした。

 解決編で特筆すべきは二点。誰にも知られずに水に何かを混入するという出来事が成立したのは、被害者各人に或る病気や事情が存在したからなのですが、それぞれ違う趣向が凝らされていて、しかもそれが本書の特殊な趣向【※佯狂患者と疾患医療関係者ばかりの病院】にマッチしていました。そしてこの或る病気や事情というのが犯人にも存在していて、犯人の動機にもなっているのも優れています【※義母が憎くて義母の料理を食べられず拒食症になり味覚喪失になった犯人が、拒食症を治して餓死しないために義母を殺そうとした】。

 そしてもう一点。泡坂妻夫らしい奇妙なロジックで明かされる、妻の死をめぐる犯行動機には凄みがありました。結局それは真相ではなく捨てネタだったのですが、インパクトから言っても泡坂妻夫という作家性から言っても、このロジックが本書の白眉でしょう。

 鳴らないはずの病院の鐘楼の音が聞こえたとき事件が起きた――夢遊病者、自称億万長者、狂信者、誰も見たことがない特別室の入院患者など、怪しい人物が集う精神科病院で続発する毒物混入事件。そして遂に犠牲者が……犯人は、使用された毒物は? 病棟に潜入した海方と小湊は事件を解決できるか? 海方シリーズ第2弾!(カバーあらすじ)

  


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