『ぬりかべ同心判じ控』倉阪鬼一郎(幻冬舎時代小説文庫)★★★☆☆

『ぬりかべ同心判じ控』倉阪鬼一郎幻冬舎時代小説文庫)

 2019年、文庫書き下ろし。

 同じ幻冬舎文庫の『からくり亭の推し理』に続く、時代本格ミステリの第二弾のようです。とはいってもシリーズではなく別物ですが。

 ぬりかべのようにでかくて判じ物が得意な元力士の同心・甘沼大八郎が探偵役を務める全5篇が収められています。
 

「第一話 仏罰の鳥を追え」★★★★☆
 ――徳が高いと評判の住職・榮心が仏罰を説いている最中、倒れてきた大仏に押し潰されて死亡し、目撃した弟子の一人も心臓発作を起こした。御開帳の秘仏を長く見ると仏罰が下って一文字に飛んできた白い鳥に目を潰されるといい、実際大店の店主が死んでいる。

 白い鳥を飛ばすトリックのインパクトが絶大で、ホラー作家としての著者のセンスを感じる一篇でした。『からくり亭』の二番煎じというか同じ趣向なのですが、演出効果からすればこちらの方が格段に上でした。【※ネタバレ*1
 

「第二話 すれ違う絵馬」★★★☆☆
 ――右の急なのが男坂。左のゆるやかなのが女坂。赤紙地蔵をあしらった絵馬に願い事を書き、日が暮れてからお百度を踏めば願いは叶うという。瀬戸物問屋のおかみが毒殺されたが、尻に敷かれていた入り婿の巳之吉には『居らずの証』があった。

 坂道が二つある状況を踏まえた暗号が用いられていて、その暗号によって交わされた殺人計画【※ネタバレ*2】こそ、捕物帳ではなく本格ミステリである所以です。
 

「第三話 消えた福助★☆☆☆☆
 ――団子と汁粉の福助堂が血の海となって夫婦のむくろは消えていた。現場には世間を騒がす盗賊・富吉の犯行声明があった。事件現場であるため借り手のつかなかった店だったが、格安にしたところかんざし売りの夫婦が店を始めた。

 また暗号ですが富吉の方はともかくかんざし売りの方には必然性がありませんし、いくら地味な夫婦だといってもさすがに限度があるでしょう。
 

「第四話 空飛ぶ寿老人」★☆☆☆☆
 ――暴虐で有名な角界の親方が屋根船の上で、飛んできた寿老人に頭をたたき割られ、寿老人を日ごろから怖がっていたおかみさんも心の臓に差し込みを起こして死んでしまった。

 相撲取りなのを活かしたトリック【※ネタバレ*3】はバカミスながら面白いものの、おかみさんが何の理由もなく寿老人を日頃から怖がっていたために心臓発作を起こしたというのはご都合主義にも程があります。
 

「第五話 最後の大奇術」★★★☆☆
 ――今日は道灌山大奇斎の引退興行だった。手妻使いの名手だったがお上の締めつけが厳しくなり足を洗うことになった。最後の大奇術は、箱の中から出した頭と四肢を斧で切断し、見事復活するというものだった。

 ああ、なるほど。引田天功が入れ替わっても気づかないかも。

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*1蠅蠅蠅蠅蠅蠅蠅

*2代わりばんこ殺め=交換殺人

*3髷をほどいてその先に縄をつけて寿老人の銅像を。行司の声でごまかした。


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