『三体』劉慈欣《リウ・ツーシン》/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳/立原透耶監修(早川書房)★★★★★

『三体』劉慈欣《リウ・ツーシン》/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳/立原透耶監修(早川書房

 『三体』刘慈欣,2008年。

 ポケミス『折りたたみ北京』に収録されていた「円」がとてつもなく面白かったため、親本の本書も購入。抜粋を改作したとありましたが、まさか作中のVRゲームの一節だったとは。

 第一部の舞台は1967年。文化大革命の嵐が吹き荒れている真っ最中です。物理学者・葉哲泰が理不尽な暴力に晒されますが、不謹慎ながらこれがパロディでないのは強みだな、と思ってしまいます。文化大革命にしろフランス革命にしろアメリカの赤狩りにしろ、ここまで愚かな出来事を現実として描けるわけですから。

 とはいえ話がどこに転がってゆくのか皆目見当のつかないまま政治の話が続き、ようやく娘の葉文潔が謎の研究施設に招かれたところで第一部は終わります。

 第二部では、ナノマテリアル研究者の王淼が軍部に呼び出され、科学者の相次ぐ自殺の捜査に協力してほしいと頼まれるところからはじまります。その最後の犠牲者こそ、葉文潔の娘でした。「物理学は存在しない」という遺書を残して……。

 ここからは一気読みです。自殺者の関係者と接触後に目の前に現れるカウントダウン、太陽の運行が不規則な乱紀と安定した恒紀が不定期に訪れる世界で文明を築いてゆくゲーム「三体」、葉文潔が所属していた謎の研究施設の本当の目的、自殺者が所属していた団体〈科学フロンティア〉と三体問題の関わり……。

 タイトルになっている『三体』とは、三体問題に由来し、ゲームを解く鍵もまた三体問題にあるようですし、科学フロンティア関係者も三体問題にゆかりのある人物でした。まさにタイトル通りに三体づくしです。

 そして思いも寄らない――というべきか、ド直球というべきか、遺書の意味もカウントダウンの意味もゲームの意味も科学フロンティアの存在理由も、すべて一つのことを指していて、しかも紛う方なきSFでした。読んでいる最中は、なんでこんなSFチックなカバーなんだろう、格好悪いなあ、と思っていたのですが、確かにこれはコテコテのSFです。

 三部作の第一作ということですが、二作目以降は普通の人類VS異星文明SFになってしまうのか心配です。一作目の何でも詰め込んだ感が続いてほしいところです。

 物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。

 数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?(カバー袖あらすじ)

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