『〔少女庭国〕』矢部崇(ハヤカワ文庫JA)★☆☆☆☆

『〔少女庭国〕』矢部崇(ハヤカワ文庫JA

 2014年初刊。

 中カッコでくくられた意味深なタイトル。

 一ページ目をめくれば、予想外に古風な文体にフランクな表現と著者独自の言い回しが混ざった、癖のある奇妙な文章が飛び込んで来ます。

 あらすじにもある、「卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の数をmとする時、n-m=1とせよ」という貼り紙から、サバイバルものだろうと思いきや、まったくそうはなりません。

 本書は「少女庭国」と「少女庭国補遺」の二部からなり、第一部「少女庭国」は部屋で目覚めた仁科羊歯子がドアを開けてゆき計十三人集まった――というだけのおはなしで、それからどうなるというものではありません。アイデアだけで終わってしまったような内容なのですが、実際のところ危機に瀕した女子中学生が集まっても案外こんなものなのかもしれません。死があまり現実感のあるものとして描かれていませんでした。

 第二部「少女庭国補遺」になり、多少なりとも物語に起伏が生まれ、状況が身近に迫って来るようになりました。無数の少女たちがどのように対応したかが番号順に綴られてゆき、年代や部屋の異なるグループによって生き残るための試行錯誤が繰り返された結果、遂には文明までが生まれてしまいます。各自が各様に考えて殺害したり自殺したり生者を決めたり出口を求めて前に進んだり反対に後ろに戻ったりと行動してゆくのがそれなりに面白いですし、平和になって死が遠ざかると「みんな偽物だ」的なのが現れちゃうのも実際にありそうなことです。

 無限に存在する少女たちと部屋の構造、少女たちが集められた目的、少女たちが目覚めるシステムのからくり、これらが明示されることは最後までありません。陳腐な連想ですが、神だか何かによってこの世に放り出された人間そのもののようです。実際のところ実存主義的な不条理に直面しているという点では同じでしょう。

 女子という存在がそもそも、既にしてグループによって一つの世界を作っているんですよね。

 架空の国の成立史、というわけでもなく、第一部にしても第二部にしても著者は掘り下げずに書き飛ばしてしまうので、全体を通してあらすじだけ読んだような気分でした。

 卒業式会場に向かっていた中3の仁科羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。隣に続くドアには貼り紙が。“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ”。ドアを開けると同じく寝ていた女性徒が目覚め、やがて人数は13人に。不条理な試験に、彼女たちは……。中3女子は無限に目覚め、中3女子は無限に増えてゆく。これは、女子だけの果てしない物語。(カバーあらすじ)

  


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