『名探偵の密室』クリス・マクジョージ/不二淑子訳(早川書房ポケミス1946)★★☆☆☆

『名探偵の密室』クリス・マクジョージ/不二淑子訳(早川書房ポケミス1946)

 『Guess Who』Chris McGeorge,2018年。

 テレビの探偵番組で人気の探偵と五人が死体とともにホテルの一室に閉じ込められ、三時間以内に五人のなかから犯人を見つけ出さないとホテルごと爆破される――という、かなり安っぽい設定で、新本格というよりはホラー映画みたいな状況でした。

 主人公のモーガン・シェパードは探偵といっても少年のころに遭遇した殺人事件をたまたま解決したあとテレビ番組の探偵に祭り上げられただけのアルコールと薬物の依存症患者なので、取りあえず捜査の真似事を始めるしかありません。

 けれど幸い――というべきか、探偵と五人の全員が何らかの形で被害者の知り合いだったことがすぐに明らかになります。犯人は誰か、閉じ込めた黒幕の真意はどこにあるのか……疑心暗鬼の密室劇がスタートします。

 ところがびっくりするくらいシェパードは推理しないんですよね。推理どころか考えることすらしない。五人の同室者たちも、弁護士のアランがことあるごとに突っかかるくらいで、ほかは普通のカフェ店員、清掃係、カウンセリング患者……神を信じる電波な女優ですらたいして癖のない人間で、パニックも議論も起こらずあっさりと終わりを迎えてしまいます。

 それからシェパードの過去が明らかになるのですが、驚いたことにテレビ用に作られた探偵どころではありませんでした。そりゃあ推理もしないわけです。そのうえ共感とか場を読む能力が欠如していて、完全にサイコパスでした。

 そもそもがサイコパスですから、真相や真犯人が明らかになってからも、恐ろしいことに反省も後悔もしません。自分の地位がどうなるかなあ、とズレたことを考えるだけです。さらには、自分のことしか考えないだけならまだしも、最後にはあろうことか真犯人を弾劾し出すのです。

 真相はシェパードに恨みのある人間が復讐を計画したというひねりも何もないものでしたが、復讐の成否はともかくとして、ハッピーエンドのような終わりを迎えるのには愕然としました。始めから終わりまでシェパードを徹底してサイコパスとして描くという意味では筋は通っているのですが……。

 前半がサスペンスとしてもホラーとしても推理劇としても中途半端なうえに、後半の復讐を成立させるために前半が存在する必然性があまりなく、主人公も魅力的とは言いがたいので、良いところと言えばサクサク読めるところぐらいでした。

 かつて少年探偵として名を馳せたモーガン・シェパードは、いまやリアリティ番組で活躍する“名探偵”として数々の事件を解決している。だがある日、目覚めると何故かホテルのベッドに手錠で繋がれていた。周囲には見知らぬ5人の男女が。外へ出る手段がない中、バスルームで謎の死体が発見される。すると突然、備え付けのTVに男が映り、5人の中から3時間以内に殺人犯を見つけなければホテルごと爆破すると告げた。狂気の殺人ゲームが始まる……驚愕の真相が待つ、ミステリの本場英国から新本格派への挑戦状!(裏表紙あらすじ)

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