『パリ警視庁迷宮捜査班』ソフィー・エナフ/山本知子・川口明百美訳(早川書房ポケミス1943)★★★★☆

『パリ警視庁迷宮捜査班』ソフィー・エナフ/山本知子・川口明百美訳(早川書房ポケミス1943)

 『Poulets grillés』Sophie HÉNAFF,2015年。

 裏表紙のあらすじには「「フランスの『特捜部Q』」と評される」と書かれていますが、どこでそう評されているのか、本当にそう評されているのかは不明です。

 個人的には本書の方が何倍も面白く読めました。『特捜部Q』は二作目三作目で既にワンパターンでマンネリに陥っていましたし、お洒落な(つもりの)会話がうざったく感じていたので。

 原題『Poulets grillés』は直訳すれば「焼き鶏」ですが、恐らく俗語で「駄目デカたち」「信用を失った警官たち」だと思われます。

 その名の通り、過剰防衛で処分されたアンヌ・カペスタン警視正が担当を任されたのは、馘首には出来ない問題児たちばかりを集めた部署でした。

 相棒が死傷してばかりなため死神と呼ばれる、不吉な13を名に持つトレズ警部補。小説家として成功したために警察にはネタ探しと話相手を求めに復職したロジエール警部。偏見から更迭された、カペスタンの発砲事件を調査した元監察官室のルブルトン警視。酒飲みのメルロ警部。賭博好きのエヴラール警部補。マスコミや噂に独自のつてを持つオルシーニ警部。パトカーですっ飛ばすために警察に入ったレヴィッツ巡査部長。コンピュータの天才、けれどそれ以外は無能なダクス警部補。

 正直なところ、本当に役に立つのか、ただの無能なんじゃないのか、と読んでいる最中には思ってしまうような連中もいます。それでも事件が解決するまでには一人一箇所は必ず見せ場が用意され、全員が協力してみごと迷宮入り事件を解決に導きます。『特攻野郎Aチーム』や『七人の侍』やバトル漫画の世界ですね。単純にわくわくしてしまいます、こういうの。いや、レヴィッツは役に立ってるのかな(^^? 笑ったのは、死神トレズ警部補の活躍です。死神という噂を最大限に利用して犯人にプレッシャーを掛けるのには、クライマックスの真剣な場面なのにもかかわらず思わず笑みがこぼれてしまいました。

 特別班の面々が迷宮入りの資料のなかから選び出したのは、麻薬密売と二件の殺人事件でした。一件の殺人は、殺害後に身だしなみを整えられた老婆の事件で、強盗にしては不可解な点が多すぎます。もう一件は船員射殺事件で、犯人はプロの殺し屋と思われるような手際のよいものでした。

 何年も前の事件をほじくり返すわけですから、当然ながら関係者も非協力的で、手がかりらしきものも本当に手がかりなのかどうかもわかりません。

 密売事件の件で警察局長に疑いの目を向けるカペスタンでしたが、やがてすべてに説明のつく形で真相が明らかになりまあす。ちょっと出来すぎという気もしますが、部下をうまく使うという意味では上司の鑑だと言えないこともないでしょう。

 特別班のメンバーが魅力的なのはもちろんですが、身勝手な犯人にすら同情の念を起こさせるあたり、著者の人間に向ける眼差しは優しいものなのでしょう。現地では三作目まで出版されているそうなので、続きの邦訳にも期待したいところです。

 ところで訳者の名前は「あゆみ」と読むんですね。恐らく百合の「ゆ」なんでしょうが、DQNネームだなあ。。。

 六カ月の停職から復帰したパリ警視庁警視正のアンヌ・カペスタンは、新結成された特別捜査班を率いることを命じられる。しかし、あてがわれたオフィスは古いビルの一角。集められたメンバーは、売れっ子警察小説家(兼警部)、大酒飲み、組んだ相手が次々事故に遭う不運の持ち主など、警視庁の厄介者ばかり。アンヌは彼らとともに、二十年前と八年前に起きたふたつの未解決殺人事件の捜査を始めるが、落ちこぼれ刑事たちの仕事ぶりはいかに……「フランスの『特捜部Q』」と評されるコミカル・サスペンス、開幕!(裏表紙あらすじ)

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