『猟犬』ヨルン・リーエル・ホルスト/猪股和夫訳(早川書房 ポケミス1892)★★★☆☆

『猟犬』ヨルン・リーエル・ホルスト猪股和夫訳(早川書房 ポケミス1892)

 『Jakthundene』Jørn Lier Horst,2012年。

 ポケミスでは2作目となるノルウェーの作品で、ドイツ語からの重訳です。スウェーデンと違ってノルウェー語翻訳者って育っていないのかな。

 17年前の誘拐殺人事件の容疑者が釈放され、証拠の捏造で訴えられる――とだけ聞くと、主人公が何かの陰謀に巻き込まれて罠に嵌められたのかとも思えますが、そうではなく、捏造は実際におこなわれており、当時捜査の責任者だった主人公が代表して訴えられたということでした。

 捏造の動機は明らかなので、いきおい捏造したのは誰なのかを見つけるのが、主人公であるヴェスティングの目的になります。改めて考えてみても真犯人はやはり逮捕された男に間違いないという直感には変わりありません。

 一方、新聞社に勤めるヴェスティングの娘リーネは、発生したばかりの撲殺事件の被害者宅を警察に先んじていち早く見つけ、犯人らしき男に襲われるという事件に遭います。

 小説ですから当然のこと、このあと二つの事件は一つにつながってゆくのですが、停職中の警官が過去の事件を洗い直し、新聞記者が独自に現在の事件を調査するという構成なので、警察小説というよりは私立探偵もののようです。どちらも警察とは距離を置いているからこそ、事件に新たな光を当てられるということでしょうか。もっともヴェスティングは停職中とはいえ警察のコネを使いまくってはいるのですが。

 親子ともども真実のために他人を踏みにじるゲスな職業という点では共通しているのも面白いし、互いに情報を共有しあってコンプライアンスがガバガバなのもご愛敬です。

 ヴェスティングには身の覚えがないとはいえ、思うところはあります。

 当時の捜査官に別の誘拐事件の被害者の親族がいて、そのせいで精神的に参っていたためその捜査官のことを信頼しきれないという不信感があります。

 煙草に付着したDNAという証拠の出現によって、その他の可能性や事実関係の検証がなおざりになってしまったという反省もあります。

 要するに何一つ信用できないというていたらくなわけですが、結局のところどちらの事件も犯人の方から動いてくれたのが解決の近道になるように、意外と構成は雑です。不審な捜査官の神出鬼没ぶりや尾行した容疑者の行動などのレッドヘリングにしても、取って付けたような感や投げっぱなしの感は否めません。

 けれど元監察官のようなカッコイイじいさんのキャラクターや、次々と先へ進む読みやすい展開など、重苦しいはずの内容のわりには読んでいて楽しい作品でした。

 17年前の誘拐殺人事件で容疑者有罪の決め手となった証拠は偽造されていた。捜査を指揮した刑事ヴィスティングは責任を問われて停職処分を受ける。自分の知らないところで何が行なわれたのか? そして真犯人は誰なのか? 世間から白眼視されるなか、新聞記者の娘リーネに助けられながら、ヴィスティングはひとり真相を追う。しかしそのとき、新たな事件が起きていた……。北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞をはじめ、マルティン・ベック賞、ゴールデン・リボルバー賞の三冠に輝いたノルウェーの傑作警察小説(裏表紙あらすじ)

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