『図書館の魔女 烏の伝言(上・下)』高田大介(講談社文庫)★★★★★

『図書館の魔女 烏の伝言《つてこと》(上・下)』高田大介(講談社文庫)★★★★★

 『図書館の魔女』の続編は、マツリカもキリヒトも出てこない場面からスタートします。前作での混乱によりニザマ国の一姫君と近衛兵たちが山の民・剛力の力を借りて亡命行の真っ最中でした。

 前作との関係が薄い人たちばかりが出てくるので、正直なところこのあたりの序盤はあまり乗れませんでした。焼き払われた村に出くわし、ただ一人の生き残りである少年を見つけ出した場面には昂奮しましたが、結局のところ少年との出会い以上の広がりを見せることなく旅は続けられます。

 そうこうしているうちに目的地である港町の遊廓にたどり着きます。そこで姫君は次の担当に引き渡され、剛力たちは報酬を貰って山に帰るはずでした……。

 ここから桁違いに面白くなってきます。

 遊廓が報酬どころか暗殺を目論んでいると気づいた剛力たちは、遊廓を抜け出し地下暗渠を縄張りにする「鼠」と呼ばれる少年たちにかくまわれます。鼠たちが剛力たちをかくまうことにした理由というのが格好よく、こういうことを恥ずかしがらずにできるのが本物の男なのでしょう。主要人物の一人である剛力のワカンが鼠の一人ファンに話す、わきまえについての説明にも心を打たれました。ファンが剛力に憧れた理由は筋肉だけではありません。こういうことを話してくれる大人は貴重ですね。

 同じく遊廓から逃れようとする近衛兵たち、鈴の音とともに現れる不気味な首切りの大男、囚われの姫君救出作戦、目を覚ました少年の身許、剛力の一人の不可解な動き、別働近衛の生き残り兵の隠しごと、遊廓に残されていた手紙、本国や遊廓の目的……新たな事実が明らかになってもそれがどう繋がってゆくのか、前作との関わり云々などいつしか忘れて読み耽っていました。

 遊廓や人斬りなど、今回の舞台は日本っぽいところがありました。人斬りなんてむしろ忍者みたいですし。

 下巻の後半以降には待ちに待ったマツリカたちも登場しますが、それ以外にも前作の影響や登場人物が随所に散りばめられているので、嬉しいやら驚くやらわずかなりともゆるがせにはできません。

 タイトル「烏の伝言」とは、作中に登場する剛力のカラス遣い・エゴンに由来します。カラスは姫君たちの逃亡に重要な役割を演じますし、タイトルの意味するところや言語障害のあるエゴンの存在と才能は容易に前作を連想させます。

 第三作がなかなか発表されません。第一巻の文庫帯では2016年刊行予定でしたがはや数年……。単に著者が忙しいだけなら気長に待つだけなのですが。講談社では同じ2016年頃の荻原規子エチュード春一番』も第三曲が未刊行のまま2021年8月になってようやく角川文庫から刊行ですし、講談社内の人事のゴタゴタが理由でなければと不安です。

 道案内の剛力たちに導かれ、山の尾根を行く逃避行の果てに、目指す港町に辿り着いたニザマ高級官僚の姫君と近衛兵の一行。しかし、休息の地と頼ったそこは、陰謀渦巻き、売国奴の跋扈する裏切り者の街と化していた。姫は廓に囚われ、兵士たちの多くは命を落とす……。喝采を浴びた前作に比肩する稀なる続篇。(上巻カバーあらすじ)

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