『ずうのめ人形』澤村伊智(角川ホラー文庫)★★★★★

 2016年初刊。

 『ぼぎわんが、来る』に続く、比嘉姉妹もの第二作です。

 本書は『リング』を意識したものになっており、『リング』が映画化されて貞子が市民権を得ている、現実と変わらない世界が舞台になっていました。

 オカルト雑誌のライター湯水が目を抉られた不審死を遂げ、現場には焼け焦げかけた原稿が残されていました。その原稿に書かれていたのは――中学生の来生里穂は暴力的な父親から逃れて母と弟妹と四人で暮らしています。家庭環境のせいで学校でもいじめられている里穂にとって、楽しみといえるのは図書館で好きなホラー本を借りて読むことでした。図書館の連絡ノートで知り合ったゆかりちゃんと、ノートを通じて情報を交換するようになった里穂は、ゆかりによって「ずうのめ人形」の怪談を知ります――。

 オカルト雑誌のアルバイト藤間と岩田は、現場に残されていた原稿を読み、その異様な内容に引き込まれてゆきます。死んだ湯水に代わってフリーライターの野崎に記事を依頼しに行った藤間は、そこで野崎の婚約者である比嘉真琴と出会い、鞄に「人形が入っている」気がすると言われます。

 やがて再び人死にが出て、里穂の原稿の内容からも、その死が伝染する性質を持つ呪いなのではないかと、野崎たちは推測します。呪いを解く方法は何なのか――。タイムリミットまで希望を捨てずに、野崎たちは原稿を読み込み関係者に当たり続けます。

 伝染する呪いという設定がまさに『リング』ですが、感染経路が口伝と読書というアナログな手段である一方、ずうのめ人形の怪談を知らされていないと思われる者まで死んでいたりと、ちょっとした違和感のようなものは、読んでいるあいだも感じていました。

 呪いを解く鍵をさがすところまでは常道ですし、作中の呪文が効かないところまではまだ予想の範疇ですが、ずうのめ人形の呪い自体が存在しなかったというのは衝撃でした【※ネタバレ*1】。存在しない、そんなものにどうやって立ち向かえばいいのか。そもそも呪いによる死の仕組みはどうなっているのか。

 原稿自体は現実を元にしてはいるが小説である、というのが作中人物も納得している前提でした。それなのにまんまと騙されてしまいました。言い落としによって隠された真相は、明らかになってみれば確かにそう読み取れなかったことが不思議なくらいです。

 この作品にはもう一つ言い落としあります。第一章冒頭、北原さんについて【ネタバレ*2】と書かれている時点で、上手い表現だとは思ったのです。【ネタバレ*3】こういう形で使う用法もあるのかと。ところが【ネタバレ*4】について何も書かれていないことで油断してしまいました。敢えて書かれていないから【ネタバレ*5】だ、と。

 本書では比嘉姉妹は無力です。真相を見抜いていながら優しさゆえに呪いを断てなかった次姉美晴にも、そしておそらく真琴にも、解決はできなかったでしょう。もちろん真琴も野崎も覚悟を持って呪いの源に臨んではいましたが、結局は違う手段を取ったわけですし。

 不審死を遂げたライターが遺した謎の原稿。オカルト雑誌で働く藤間は後輩の岩田からそれを託され、作中の都市伝説「ずうのめ人形」に心惹かれていく。そんな中「早く原稿を読み終えてくれ」と催促してきた岩田が、変死体となって発見される。その直後から、藤間の周辺に現れるようになった喪服の人形。一連の事件と原稿との関連を疑った藤間は、先輩ライターの野崎と彼の婚約者である霊能者・比嘉真琴に助けを求めるが――!?(カバーあらすじ)

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 ずうのめ人形 


 

 

 

*1ずうのめ人形の怪談は言い伝えでも何でもなく、ゆかりによる純然たるフィクションだった

*2「いつもは穏やかな彼女が」

*3登場人物の性別を明らかにするために代名詞を

*4次の戸波編集長

*5男性


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