「原子の町」スタニスワフ・レム/芝田文乃訳(Miasto Atomowe,Stanisław Lem,1947/2005)★★★☆☆
――テムズ川の水位が例を見ないほど下がっていた八月、私は上司から呼ばれた。「君はアメリカに三年いたことがあったな? 英語以外ではドイツ語を話せるな?」。私は原子爆弾の研究施設に潜入し、傍受された二通の電報の謎を解く任務に就くことになった。ありがたいことに、海外問題の専門家メイキンスもメンバーの一人だった。金庫の扱いが迂闊だという私の指摘に、上司のグレアムは「しばらくは中立でいてくれたまえ。ある人物を紹介する」と言って、ラヴァラック技師を呼び寄せた。土砂崩れで顔面を削られ、妻が自動車事故で亡くなったものの、くじけることなく、どんな犠牲を払ってでも働きたいと思っている高潔な男だという。そのとき電話が鳴った。「何だと? 無線傍受が何か捕まえたぞ!」
スパイの方法と正体を巡るミステリのような作品であることに加え、わざわざ施設内の装置などの説明にかなりの量が費やされていてこれがまた読ませるのですが、非英語圏作品特有の翻訳のこなれなさが目立ちました。恐ろしいまでのスパイの覚悟と、同じ覚悟を持つがゆえの真相到達は、定番と言えば定番ですがやはり凄まじいものがあります。
「スタニスワフ・レムからレム作品のアメリカ版の翻訳者、マイクル・カンデル宛ての書簡」久山宏一訳/沼野充義選
もとが個人的な手紙なので、かなりわかりづらいです。
「スタニスワフ・レム語録」牧眞司編
書き抜きなのでこれも少しわかりづらいところがありますが、SF批判や自作解説は単純に読んで面白かったです。
「ハヤカワ文庫JA総解説PART3[1001〜1500]」
「SF BOOK SCOPE」
◆宝樹『時間の王』、スタニスワフ・レム『インヴィンシブル』、『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』、月村了衛『機龍警察 白骨街道』、キム・ニューマン『われはドラキュラ――ジョニー・アルカード』、アイリス・オーウェンス『アフター・クロード』など。
「円円のシャボン玉」劉慈欣/大森望・齊藤正高訳(圆圆的肥皂泡,刘慈欣,2004)★★☆☆☆
――円円は生まれたときから冴えない表情だった。シャボン玉を見るまでは。幼稚園の年長組になり、中学生になっても、円円はまだシャボン玉が大好きだった。時間は飛ぶように過ぎ、大学を卒業して起業した円円はもうシャボン玉を吹かなくなった。円円のパパは、もうすぐ水不足で消えてしまうこの都市の市長になっていた。「大型水処理プロジェクトに投資してくれないか」「ダメよ、資金に余裕はあるけれど研究開発に使いたいの……」「何に使うんだ?」「でっかいシャボン玉!」。二年後、飛行機から巨大シャボン玉が膨らみ、街を包み込んだ。予定通りに風で流されず落ちてしまったのだ。排気ガスがシャボン玉の天井に溜まり、温度が上昇していった。
父と娘のヒューマンドラマかと思っていたら、ちょっとしたパニックSFになって盛り上がりかけました。ただ相変わらずの著者のこと、果たしてギャグで書いているのかシリアスで書いているのかわからないところがあります。そうはならないだろう、とは思うものの最後にはあっさりとハッピーエンドになり、シャボン玉が役立つというきれいな形で終わりました。
「SFのある文学誌(79)小酒井不木3――『恋愛曲線』と医療怪談」長山靖生
「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」鳴庭真人
「大森望の新SF観光局(81)波瀾万丈、四国初の日本SF大会」
「第9回 ハヤカワSFコンテスト最終選考結果発表」
「薬」メグ・エリスン/原島文世訳(The Pill,Meg Elison,2020)★★☆☆☆
――ピルと呼ばれる痩せ薬が開発された。服用時に苦痛を伴い、副作用で死者も出るが、急速に普及していった。わたしの父も副作用で死んだというのに、家族は薬を飲むことを選んだ。今やわたしは数少ない肥満者となっていた。
ローカス賞受賞作。アメリカの現実自体が現実のパロディみたいな状況が多々あるなか、こんなものを書かれても、現実をなぞっているだけのようにしか見えません。