『雪が白いとき、かつそのときに限り』陸秋槎/稲村文吾訳(早川書房ポケミス1948)★☆☆☆☆

 『当且仅当雪是白的』陆秋槎,2017年。

 ポケミスがとち狂った――と言いたくなるような、若者向け小説の表紙のようなイラストです。原書と同じイラストを使用しているらしく、青春小説という触れ込み通りのイラストです。

 相変わらず会話が書き割りで読んでいて目が上滑りするし、ところどころでツッコミなのかギャグなのか謎の喧嘩腰や説教臭い台詞が出て来るのもしらけます。短篇「1797年のザナドゥ」は面白かったので期待したのですが、長篇の長さで起伏がつけられていないのを読むのは苦行でした。

 現場はいわゆる雪密室で、現場の足跡や凶器の指紋などから自殺だとしても殺人だとしてもすっきりしない状況でした。

 この5年前の事件自体が現在の事件の伏線になっているというスケールには惹かれますが【※ネタバレ*1】、肝心の密室状況に魅力が乏しいのが痛い。

 動機は『元年春之祭』ほどではないにしても、ちょっと普通じゃないものでした。5年前の殺人の動機は意外性のあるものですし、犯人の目論見がまんまと成功していたことは第一章の冒頭から明らかになってはいますが【※ネタバレ*2】、到底納得できるものではありません。

 現在の殺人の動機に至っては、何かもう好きにしてくれという感じでした。【※ネタバレ*3

 冬の朝の学生寮で、少女が死体で発見された。白い雪に覆われた地面には足跡がなく、警察は自殺として処理する。5年後、生徒会長の馮露葵《ふう・ろき》は、寮委員の顧千千《こ・せんせん》の相談を受ける。いじめ騒動をきっかけに過去の事件の噂が校内に広がっているのだ。真相を探るべく、彼女は図書室司書の姚漱寒《よう・そうかん》と調査を始める。明らかになる、少女に関わった者たちの苦い過去。そんな折、新たな殺人事件が寮で発生する。しかもその現場は5年前と酷似した“雪密室”だった……冷徹なロジックと青春の痛みが織りなす華文本格ミステリの新境地(裏表紙あらすじ)

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ネタバレ

 

*1現在の事件の犯人は、5年前の事件の状況を廊下で関係者から聞いて知ったので、ドアノブの血痕が外側ではなく内側にあったと勘違いして偽装工作してしまった

*2転入したてでいじめられるのが怖かった転入生が、いじめられっこを殺していじめっこを犯人に仕立て上げることで、いじめ自体がなくなる空気を作りあげようとした。実際、現在の寮ではいじめに対して厳罰が用意されている

*3そういう機会を得てしまった


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