『ミステリマガジン』2022年1月号No.750【ミステリが読みたい!2022年版】

 国内篇1位は米澤穂信『黒牢城』。著者受賞コメント掲載。海外篇6位『第八の探偵』、9位『台北プライベートアイ』は以前から気になっていた作品。国内篇3位『機龍警察 白骨街道』、5位『兇人邸の殺人』、9位『invert 城塚翡翠倒叙集』はシリーズもの最新刊。4位『蒼海館の殺人』もシリーズものですが未知の作家でした。10位『蝶として死す 平家物語推理抄』は新人賞も受賞し、著者受賞コメントが掲載されています。ミステリーズ!新人賞受賞作「屍実盛」を含む短篇集です。

 ベスト10アンケートでは、小山正氏8位の『オルレアンの魔女』が気になります。著者名(稲羽白菟)もタイトルも知らなかったのですが、なるほど島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞出身の新人さんでした。佳多山大地氏は今回も無難なコメントで残念。末國善己氏9位の『廃遊園地の殺人』は「遊び心に満ちた造本」だそうで、こういうのに弱いです。(※書店で実際に見てみたところ、見取り図が遊園地のパンフレット風になっているくらいで、そこまでではなかった。私立霧舎学園みたいに、何かの伏線になっている仕掛けであるのなら面白そうだが)
 

「迷宮解体新書(125)竹本健治」村上貴史
 

「華文ミステリ招待席 第2回」

臨死体験をした女」時晨《シーシェン》/阿井幸作訳(濒死的女人,时晨,2015)★★★☆☆
 ――雑誌『神秘の探索』39号より。自動車事故で死亡が宣告されてから四〇分後に息を吹き返した呉さんという女性が、臨死体験をしたという。郭「トンネルはくぐりましたか?」。呉「トンネルというより橋に似た薄暗い空間を通り抜けました」。郭「川に人はいましたか?」。呉「おばあさんがお椀を渡して、飲むようにすすめられました」。郭「孟婆湯でしょうか」。呉「それから黒い獣みたいなものが現れたんです。もう一人の、形のない女性を追いかけ、爪を容赦なく突き立てました」……魂を信じないという陳爝に、私はこの雑誌を読ませた。すると陳爝は上海の地図を開き、上海市内で最近女性の死体が発見されたニュースを探せと言う。そこで新聞サイトを調べると、身元不明の死体が昨日発見されていた。「予想は正しかった。本当に殺人事件が起きていた」「死因は心筋梗塞だぞ」「俺が言っているのはこの件じゃない」陳爝は呉茜が入院する病院に向かった。

 2021年9月号の華文ミステリ特集で紹介されていた時晨の「新本格オマージュの色合いが強い」陳爝シリーズ。臨死体験から現実の事件を浮かび上がらせる前半は、島田荘司『眩暈』や『ネジ式ザゼツキー』を思わせます。けれど実は本番はここから。「中国のエラリイ・クイーン」と呼ばれる著者により、理詰めの推理のための準備となる伏線の張られた聞き込みがくどいくらいに続きます。割れたガラスの水槽からいくつもの意味を見出し、犯人を絞り込む推理のクライマックスは圧巻でした。
 

月村了衛オンライントークショー採録 『機龍警察 白骨街道』
 『白骨街道』執筆中にミャンマーでクーデターが起こったことがきっかけで、これまで「至近未来」だった時代設定が「今」になった点を、著者自身は「追い抜かれた」という表現を使っていました。
 

「書評など」
城平京『虚構推理短編集 岩永琴子の純真』はシリーズ第四作。漫画原作+書き下ろし収録。新名智『虚魚』は第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。「あっけらかんとした虚無感が漂う」「三咲とカナちゃんの浮世離れしたキャラクター造形」「ラスト一文の余韻が胸に残る」という紹介文に惹かれます。新刊・復刊からはフレドリック・ブラウン『不吉なことは何も(復讐の女神)』
 

「ミステリ・ヴォイスUK(128)ステイケイション」松下祥子

 [amazon で見る]
 ミステリマガジン 2022年1月号 


防犯カメラ