『Armed with Skillets』2015年。
世間の波に押されるようにして従軍した主人公ティム・コールは、幼い言動からキッドと呼ばれてからかわれていました。味音痴のコック、エド・グリーンバーグからその食いっぷりを見込まれ、もともと料理に興味のあったティムもコック兵になります。
そしていよいよ初陣は“Dデイ”ノルマンディー降下作戦でした。それをきっかけにティムは戦争の理不尽を目の当たりにしながら、五つの謎に出会い解き明かしてゆくことになります。主要人物だと思われた人間が死んだり、ちょい役だと思われた人物がのちのちの伏線になっていたりと、すべての登場人物がまるでほんとうに生きていたかのようです。
「第一章 ノルマンディー降下作戦」
――実戦は訓練通りとはいかず、作戦決行前に掃射を受けながらパラシュート降下を余儀なくされる。館《シャトー》を野戦病院にして負傷者の治療が始まった。射手のライナスがなぜかパラシュートを集めていた。
謎が解かれても物語は終わりません。戦争は続いているのだから当たり前です。のちのちの展開に通ずる伏線も埋め込まれていました。パラシュートを何のために使うのか? 戦争中とはどういう状態なのか、パラシュートとはいったい何なのか、そして兵士にもそれぞれ役割があるということ、その三つが現地の需要とぴったり合った真相でした。
「第二章 軍隊は胃袋で行進する」
――レジスタンスの隠れ場所に匿われていた負傷兵ダンヒルもG中隊に加わった。いつでも栄養価の高い卵を食べられるという粉末卵だが、味は最悪で、兵士たちからの評判も最低だった。そんな粉末卵が三トン盗まれた。このままでは補給兵オハラの上官が責任を取らされてしまう。
一種の「見えない人」と「神の灯」(「天外消失」かな?)の組み合わせです。ロス大尉はたまたま人間的にもクズですし人望もありませんが、広告塔というのも確かに役割としては必要なのでしょう。アメリカの暗部、規律を重んじる軍隊の理不尽が明らかにされます。
「第三章 ミソサザイと鷲」
――オランダでドイツ軍の反攻に遭い、民家で待機することになった。民家の住人ヤンセン夫妻にはロッテとテオという姉弟がいた。戦闘が始まると、奇声を上げて走り回り撃たれた民間人がいた。ティムと作戦を共にしていたアンディも撃たれ、衛生兵スパークと共にいったん引き上げると、ヤンセン夫妻が心中していた。
戦場で人を殺すことの意味を問うミステリはしばしば見かけますが、本作では戦場で自殺する理由が謎となります。理由として第一章のさりげない描写が再演されたり、グリム童話という一般常識(と思ってしまうもの)がのちのちの伏線になっていたりと、ティムの将来に関わる出来事があったりと、前後とのつながりも深い作品です。
「第四章 幽霊たち」
――お調子者のコック、ディエゴの様子がおかしい。ざく、ざく、ざくという音が聞こえる。銃剣の音だ。自分が殺した奴らが幽霊になってさまよっているんだ……。ディエゴは戦争神経症と診断されたが、一方でドイツ兵の生き残りが潜んでいる可能性もあった。果たして、小用をたしに行った兵士が負傷するという事件が起こった。
ここでも戦争の闇が描かれます。ディエゴの聞いた音の意味は幽霊よりも恐ろしいものでしたし、ディエゴの様子自体が事件の起こる理由ともつながりのあるものでした。そして衝撃の幕切れが訪れます。
「第五章 戦いの終わり」
――ティムは変わってしまった。白旗を上げている相手を撃ち殺したこともあった。それでも戦争は終わりつつあり、古参兵には休暇も与えられることになった。収容所から逃げてきた捕虜や、捕虜と一緒に逃げてきたヒトラー・ユーゲントもいた。ソヴィエトの赤軍がドイツを侵攻していた。それを聞いて、ザクセン州に知り合いがいるというダンヒルの顔が曇った。
最後は「十三号独房の問題」。コックであること、戦場であること、が活かされていました。たとえ場所が戦場であっても、人と人との出会いはあるし、それが人を成長させもするのは、事実ではあれ悲しいことです。悲しいですが前向きなことでもあります。