『虚構推理 スリーピング・マーダー』城平京(講談社タイガ)★★★★☆

『虚構推理 スリーピング・マーダー』城平京講談社タイガ

 『Invented inference Sleeping Murder』2019年。

 高校生のころの岩永琴子がミステリ研究会に勧誘されるという「岩永琴子は高校生だった」、六花を追って自殺者の続くアパートを訪れる「六花ふたたび」、そして遺産相続と殺人者の償いに巻き込まれる「明日のために」「スリーピング・マーダー」「岩永琴子は大学生である」から成っている長篇です。

 「岩永琴子は高校生だった」「六花ふたたび」はそれぞれ独立した短篇としても読めて、いずれも日常の謎もので、前者は岩永をミステリ研に勧誘する理由に仕掛けられたどんでん返し、後者は自殺者が続く理由を管理人が納得する形で提示する虚構推理になっていました。

 この二篇は短篇として独立しているだけでなく、人の恋路の邪魔をしない、岩永琴子には近づくな、自責の念、六花の関わり、峰打ち(?)……あたりが長篇全体の伏線にもなっていました。

 「明日のために」は、「スリーピング・マーダー」事件の前日譚ですが、心霊スポットに行ったあと学校を休んだ旧友の謎を解く虚構推理と、岩永の深謀遠慮も描かれています。

 二十三年前、巨大企業の社長だった妻を、妖狐に頼んで殺してもらった……。音無剛一は岩永琴子にそう語りました。経営方針を転換すべき時期であり、会社だけでなく子どもたちの将来にも強権を振るって他人の言葉に耳を貸さない妻を、生かしておけなかった。自身が癌にかかり、因果応報を感じた剛一は、子どもたちに罪を告白しようと考えます。けれど妖狐に頼んだと言っても信じてもらえないことから、剛一を妻殺しとする推理を組み立てさせ、優秀な推理をした者から順番に好きな遺産を選べるという方法を考え出しました。推理の判定者に選ばれたのが、妖しい噂のある岩永でした。

 もちろん裏でコントロールしているのは岩永ではあるのですが、第三者に虚構推理させるというこれまでとは違う趣向が取られていました。

 副題の「スリーピング・マーダー」といえばクリスティの得意な手法ですが、事件解決の最中に関係者が次々と告白しだすというのも、黄金時代の本格ものっぽい展開です。推理にしても告白にしても関係者が勝手にしゃべってくれるんですよね。たぶんもともとは小説を平板にしない作劇法だったのでしょうけれど。

 さてクリスティをはじめとしてスリーピング・マーダーものにおいて眠れる殺人を起こす理由の大半は好奇心なのですが、本書では自責の念という一応のもっともらしい理由が用意されているのが特徴です。これって意外と珍しいかも――と思ったのですが、そもそも犯人自ら眠りを起こすというところが普通ではありませんね。

 今回は関係者に推理させるということもあり、これまで以上に手堅い推理が用意されていました。関係者の告白を伏線にすることでその後の推理に説得力を持たせている【※ネタバレ*1】だけに無理がありません。その流れもすべて岩永がコントロールしていたわけですが。

 その後の真相は岩永だからこそ知り得た事実と、岩永が譲れないこの世のことわりにより、剛一自らが口にした因果という言葉に斬られることになりました。

 「二十三年前、私は妖狐と取引し、妻を殺してもらったのだよ」妖怪と人間の調停役として怪異事件を解決してきた岩永琴子は、大富豪の老人に告白される。彼の依頼は親族に自身が殺人犯であると認めさせること。だが妖狐の力を借りた老人にはアリバイが! 琴子はいかにして、妖怪の存在を伏せたまま、富豪一族に嘘の真実を推理させるのか!? 虚実が反転する衝撃ミステリ最新長編!(カバーあらすじ)

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*1 我が子が殺したがっていると知って自殺の動機の後押し

 

 


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