『アンの愛情』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫)★★★☆☆

『アンの愛情』モンゴメリ松本侑子訳(文春文庫)

 『Anne of the Island』L. M. Montgomery,1915年。

 アン・シリーズ第三作。カナダ本土の大学に進んだアンの18歳から22歳までが描かれています。

 級友と過ごしている最中に空想に耽ったり(p.61)するところは相変わらずですし、代理人にプロポーズされたり(p.103)ぼけぼけした借家の老婦人の会話(p.120)やダイアナの大おばアトッサの毒舌(p.134)やハリソンさんの毒舌(p.146)などのユーモアも健在です。

 シリーズものならではの安定感もあれば、前作までにはなかった新しさも加わっていました。

 新しさの一つがフィリッパ(フィル)という新しい級友なのですが、この新キャラがピーチクパーチクとうるさいだけの残念な人物で、フィルが出てくると途端につまらなくなってしまいます。

 アン自身は相変わらず空想には耽るものの、イマジナリーフレンドが見えなくなりつつあるポール(p.246)や「心の同類」ではなくなったアラン牧師夫人(p.369)らのことも、そして自らも大人になることは受け入れています。

 アンが自身のルーツを訪れるところ(p.230)も、大人になったことを印象づけます。

 死や衰えの影は『赤毛のアン』のころから常につきまとっていましたが、本書でもマリラのやせた姿(p.89)という何でもない描写から、ダイアナの大おばジョゼフィーン・バリーの死(p.214)、そしてルビー・ギリスの病(p.130)という衝撃的な事実もありました。「私が慣れ親しんだところじゃない」(p.171)という言葉には胸が締めつけられました。

 邦題『アンの愛情』に相応しく、本命を振ったり自分の気持に気づいたりと揺れ動くアンの心は恋愛ものの王道でした。

 アンやフィルやダイアナ以外にも多くの恋愛が登場しますが、スキナー夫人やジャネットの挿話はもうちょっとうまく物語に溶かし込ませられなかったのかな……と思わないではいられません。アンの恋愛観に影響を及ぼしているのはわかるのですが、むりやり嵌め込んだような唐突感は否めません。

 面白い場面は随所にあるものの、魅力的な登場人物が少なく、エピソードも散漫でした。

 アン18歳、ギルバートとカナダ本土の大学へ。美しい港町、新しい友フィル、パティの家での楽しい共同生活。娘盛りのアンは貴公子ロイに一目惚れされ、青年たちに6回求婚される。やがて真実の愛に目ざめ、初めての口づけへ……。英文学と聖書からの引用を解説した日本初の全文訳・訳註付アン・シリーズ、恋に胸ときめく第3巻。(カバーあらすじ)

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