『最初の接触 伊藤典夫翻訳SF傑作選』高橋良平編/マレイ・ラインスター他(ハヤカワ文庫SF)★☆☆☆☆

『最初の接触 伊藤典夫翻訳SF傑作選』高橋良平編/マレイ・ラインスター他(ハヤカワ文庫SF)

 『ボロゴーヴはミムジイ』に続く、伊藤典夫SFマガジン傑作選の第2集。「最初の接触」を除きすべて1950年代の作品で訳載も60年代と、とにかく古い。
 

「最初の接触マレイ・ラインスター(First Contact,Murray Leinster,1945)★☆☆☆☆
 ――宇宙船ランヴァボンが遭遇したのは、ほぼ人類と同じ宇宙人だった。表面上は友好的だが油断は出来ない。このまま地球に帰って地球の場所を知らせてしまい、総攻撃されるわけにもいかない。となると万が一に備えて全滅させるしかない。相手も同じことを考えていたため、双方にらみ合ったまま身動きが取れなくなってしまった。

 無邪気だなあ。いまだ実現していないファースト・コンタクトという今でも耐えうる題材でありながら、スペース・オペラのような暢気なやり取りの挙句、未知の宇宙船の取り替えっこというまったく納得しがたい解決策で幕を閉じます。
 

「生存者」ジョン・ウィンダム(Survival,John Wyndham,1952)★★★☆☆
 ――火星行きの宇宙船が故障し、火星の周回軌道に乗って地球からの救助を待つことになった。十七、八週間は持ちこたえられるはずだ。だが修理を試みた乗員が事故死し、死体から足が切り取られているのが発覚してから、少しずつ予定は狂い始めた。アリスは死んだ乗員の食料を要求した。お腹の子の分も必要だと……。

 孤立した宇宙船でのサバイバルもので、生き延びるための努力も葛藤も人肉食も今となっては古びてしまっています。けれど犠牲者を決めるくじ引きから妊婦が免れるために主張した理屈は、21世紀となった今でも現役で通用する不平等な真理であり、むしろ昨今こんなことを書けば却って差別的と言われかねないことを思えば、当時だからこそ書けた真理なのでしょう。なりふり構わないインパクトという点では今でも通用します。母は強しにもほどがあります。
 

「コモン・タイム」ジェイムズ・ブリッシュ(Common Time,James Blish,1953)★★☆☆☆
 ――ギャラードが宇宙船で目覚めると、時計が止まっていた。いや、違う。二時間経って秒針が一つ動いた。どういうわけか船内時間が遅くなっている。体が船時間に支配され、単純な作業を終えるのさえ何ヵ月もかかることになる。ブラウンたちに死をもたらしたのはこれなのか?

 人間の人格は周囲の物体によって決定されるので、外界から受ける影響から完全に遮断されたら人格は消滅してしまう。そして超光速移動中の宇宙船の内部は変化がないため……というアイデアは面白いのですが、宇宙人とのコンタクトとコミュニケーションまでいくとついていけません。
 

「キャプテンの娘」フィリップ・ホセ・ファーマー(The Captain's Daughter,Philip José Farmer,1953)★☆☆☆☆
 ――月の貨物宇宙船から乗組員が一人消え、船長の娘が発作を起こしたことからゴーラーズ医師が呼ばれた。船長の娘デビーは美しいが、魚を食べたのか部屋が魚臭い。インシュリン・ショックやてんかん発作に似ているがどちらでもないようだ。失踪したのはデビーの恋人だった。

 トンデモ製造機フィリップ・ホセ・ファーマーのバカSF。相変わらずパルプのりの文体がキツイ。そして無駄に長い。寄生生物に寄生された男女は、寄生生物の生殖のため意思に反してセックスせずにはいられなくなってしまった――という、だから何なんだという話を大真面目に書いているから困る。
 

「宇宙病院」ジェイムズ・ホワイト(The Trouble with Emily,James White,1958)★☆☆☆☆
 ――恐竜型異星人の患者とテレパシー能力を持つ異星人医師とのあいだをとりもつ連絡係を任命されたコンウェイだった。

 ラインスター「最初の接触」もそうでしたが、こうした素朴な異星人観の作品は今読むとキツイです。
 

「楽園への切符」デーモン・ナイト(Ticket to Anywhere,Damon Knight,1952)★★☆☆☆
 ――リチャード・フォークは気のたしかな男だった。三カ月前まではただひとりの正気の人間だった。いまフォークは死人であった。フォークの柩は火星に向かう貨物船なのだった。火星に着くとゆっくりと解凍されていった。ただひとり分身処置が効かない人間だった。ゲートを抜けて、星へ行くつもりだった。

 捏造された世界で一人真実に気づいてしまうというタイプの雛形なのでしょうか。老化を止めるゲートという都合のいい存在によって無事に脱出できました。
 

「救いの手」ポール・アンダースン(The Helping Hand,Poul Anderson,1950)★☆☆☆☆
 ――太陽連邦に援助を求めたスコンタールの大使が無礼な態度を取ったため援助。激怒するヴァルタム陛下に対し、大使スコルローガンは五十年後には自分の態度が正しかったことがわかるだろうと断言するのだった。

 国際交流による独自の文化・科学の消滅は多かれ少なかれ現実でも起きていますが、それを「悪」と断定するところは素朴に過ぎるでしょう。スチームパンクも発想は似たところにあるでしょうか。

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