『影のオンブリア』パトリシア・A・マキリップ/井辻朱美訳(ハヤカワ文庫FT)★★★☆☆

『影のオンブリア』パトリシア・A・マキリップ/井辻朱美訳(ハヤカワ文庫FT)

 『Ombria in Shadow』Patricia A. McKillip,2002年。

 2003年度世界幻想文学大賞受賞作。〈プラチナ・ファンタジイ〉の一冊です。

 いわゆるファンタジーらしいファンタジーでした。

 オンブリアを治めていた大公ロイス・グリーヴが身罷り、妾妃のリディアは宮廷を追放され父親の酒場に戻った。大公の大伯母ドミナ・パールがオンブリアを支配しようとしているのを危惧した妾腹の子デュコン・グリーヴは、幼い世継ぎカイエルを安全な場所に匿おうとするが、ドミナ・パールは正当な血筋の者を殺そうとするよりは即位させてその摂政となり、影から国を支配する道を選んだ。

 魔法使いフェイは様々な客から呪いの依頼を受けており、今回はどこぞのお偉いさんがデュコンの暗殺を依頼してきた。フェイの蝋人形マグは、追放されたリディアを助け、デュコンが殺すに相応しい人間でないのなら助けようと考え、宮廷に潜り込んだが、図書室に閉じ込められてしまう。

 毒を盛られたデュコンはフェイの家でリディアと再会し、マグを取り戻したいフェイとも協力してカイエルを救おうとする。

 前半、追放されて夜の街を逃げ帰るリディア、カイエルを連れて秘密の通路を逃げるデュコン、宮廷に潜入して秘密を探ろうとするマグらが動き回っている場面は、活き活きとして面白かったです。

 ところが後半、オンブリアの秘密とか言い出すあたりから失速してきます。結局のところ、冒険物語ではなくてなぜファンタジーなのかという、作品をファンタジーたらしめている世界の設定に縛られて予定調和になってしまっていました。二十年近く前の作品ということを割り引いても、二重世界やデュコンの父親や不死身のドミナ・パールなどベタでチープ過ぎるでしょう。

 凝った文章を積み重ねることで、陳腐な世界を豊饒な世界にする――ところまでは行ってませんでした。

 オンブリア――それは世界でいちばん古く、豊かで、美しい都。そこはまた、現実と影のふたつの世界が重なる街。オンブリアの大公ロイス・グリーヴの愛妾リディアは、大公の死とともに、ロイスの大伯母で宮廷を我が物にしようとたくらむドミナ・パールにより宮殿から追いやられる。だがそれはふたつの都を揺るがす、怖るべき陰謀の幕開けにすぎなかった……2003年度世界幻想文学大賞に輝くマキリップの傑作ファンタジイ!(カバーあらすじ)

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