『星降り山荘の殺人』倉知淳(講談社文庫)★★☆☆☆

『星降り山荘の殺人』倉知淳講談社文庫)

 各章の冒頭に著者の説明書きがあり、それが一種の読者への挑戦のようになっていました。ここに伏線があります、とか、この人は犯人ではありません、とか。そして当然のごとく、それが【ネタバレ*1】にもなっていました【※ネタバレ*2】。こうしたメタ的なところで騙してやろうというのが、いかにも新本格らしくて面白い。

 星園による条件ごとの消去法の推理は圧巻でした――途中までは。六つ目の条件『行動』で、犯人がヤカンの警報装置を不発だと気づかせたかったのはなぜか、という推理に至って、いたずらに複雑になり且つ説得力がありませんでした。この条件で犯人からはずれる人物はほかの条件でも犯人からはずれるのだから、敢えて複雑な項目を立てる必要はなかったと思うのですが。

 【ネタバレ*3】というのが真相なので、星園の推理(の一部)自体に無理があるのは当然ではあるのですが、だからこそ無理なくスマートにしてほしかったところです。

 肝心の真相にしても、ミステリーサークルが作られた理由がお粗末すぎて話になりませんでした。真相が捨て推理よりもひどいというのは一番がっかりするパターンです。【※ネタバレ*4

 動機も投げ遣りだし、狂気の描き方も安っぽいし、ちゃんと最後まで気を抜かずに書いてもらいたいです。とはいえ著者が倉知淳なので、これは投げ遣りというよりもギャグのつもりなんでしょう。【※ネタバレ*5

 雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる殺人事件……。果たして犯人は誰なのか!? あくまでもフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編推理。(カバーあらすじ)

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*1 叙述トリック

*2 「探偵役」が麻子ではなく星園だと誤認させる。

*3 犯人が探偵役を演じて、ほかの人間を犯人に仕立て上げるために偽のロジックを築いた

*4 犯人・星園は自身のコテージのピッケルを凶器に使い、現場の壁に掛けられたピッケルと入れ替えようとしたが、ピッケルの形が違ったため、壁の煤跡にずれが生じてしまう。そこで煤跡自体を消すために外の雪を集めてヤカンで沸かして水で煤を拭き取った。その雪の跡がミステリーサークルのような円状だった。※壁に煤跡があるのは暖房が薪ストーブだったため。

*5 星園は事務所社長のホモ愛人だった。事務所社長がリゾート会社社長に脅されていたためリゾート会社社長を殺害した。探偵役の麻子に犯人だと暴かれた星園は、冷静なキャラをかなぐり捨てて「ブス」など貧弱な語彙の罵倒を始めた。


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