文章読本とはあるものの、作文指南でも名文案内でもなく、英文の特徴をとっかかりにした作品鑑賞というべきものです。同じ著者による『英詩のわかり方』と同様、わかりやすく書こうとしているのか却ってまどろっこしく、理屈っぽいのを避けているのかふわっとしていて隔靴掻痒でした。文章読本という形式にせず、普通に作品鑑賞でよかったのではないかと思います。
日本語とは違う英語の特徴として、手紙をいきなり用件から書き出す「性急さ」「おもむろさ」を挙げ、そんなふうにいきなり「This blind man」からおもむろに始まる小説としてカーヴァー「大聖堂」を紹介しています。こうした書き出しや、短い文章が一定の割合で出てくることを、語り手の性急さの表れと捉え、語り手の思考や性格の傾向を体現している、と著者は説いてゆきます。
英語にはピリオド、カンマ、コロン、セミコロンといった句読点があります。そんななか、著者がエリザベス・ギャスケルの作品を例にして挙げたのは(カッコ)。重要な意味はありませんよ、とカッコにくくることで、「私は意味がないことを言ったりもしますよ」という語り手の態度の表明なのではないか、というのが著者の説明でした。日本語にもカッコはあるので、この章は特に英語文章読本という感じはしません。ちなみにp.85の「趣味に追う」は「趣味に負う」の誤記だと思います。
英文に特有といえばイタリック体も代表格の一つで、イタリック体を扱ったヘンリー・ジェイムズの章でもカッコと同じような効能を挙げていました。
そしてもう一つ英文に特有なのが挿入句でしょう。フランケンシュタインの怪物が繰り返す「listen to me」に注目し、敢えて「listen」を取り上げて、「自分は話を聞いてもらっていない」という前提があると指摘します。つまりこの挿入句は翻訳文でも日本語に訳さなくてはならないのでしょう。
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