『ミステリマガジン』2024年9月号No.766【現代海外ミステリ短篇を読もう!】

『ミステリマガジン』2024年9月号No.766【現代海外ミステリ短篇を読もう!】

「現代海外ミステリ短篇を読もう!」
 現代海外ミステリ短篇特集と銘打たれてはいますが、シリーズ作品と受賞作を並べただけで、現代海外ミステリについての概観も特集全体の解説も一切ない安易な特集でした。「華文ミステリ招待席」は休載でした。

「キリング・フィールド」M・W・クレイヴン/東野さやか訳(The Killing Field,M. W. Craven,2020)★★☆☆☆
 ――イギリス口蹄疫で殺処分となった動物たちを埋葬する共同墓地、キリング・フィールド。そこから成人男性ふたりの死体が見つかる。捜査にあたることになったワシントン・ポー刑事は、衝撃的な光景を目にする。ふたつの死体は、有刺鉄線で手脚を縛られ、牛の死骸に縫い付けられるという残忍な殺され方をされていたのだ。一体なぜ? そして、誰がこんなことをしたのか?(解説あらすじ)

 〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズ。シリーズものの短篇は、ファンには嬉しいのでしょうが、新規には何の面白味もありません。現実の社会で起こった出来事を取り込んでいた点に感心したくらいで、あとは無意味な残虐性しか印象に残りませんでした。
 

「浜辺の少女たち」アン・クリーヴス/高山真由美訳(The Girls On the Shore,Ann Cleeves,2022)★★☆☆☆
 ――イギリス南西部のノース・デヴォン。1月の、霜が降りた寒々しい浜辺に2人の少女が立ち尽くしていた。事件性を疑ったマシュー・ヴェン警部が少女たちに声をかけると、いつまでも戻ってこない母親を待っているのだという。マシューの頭を、春にこの町で起こった事件――首に刺青を入れた男が海岸で殺されていた事件のことがよぎるが……。(解説あらすじ)

 〈マシュー・ヴェン警部〉シリーズ。警察ならずとも誰もが疑うであろう状況から一転、意外な事実が明らかになりました。そこまではよかったです。問題に直面している人にとっては前向きな言葉をかけられること自体が救いになるのかもしれませんが、すべては希望的観測に過ぎずある意味無責任でしょう。そもそも救われたのは相手ではなく、自身がDVの問題を抱えていた警察官の方がすっきりしただけのような気が。
 

「第二房の死体」ケイト・ホール/武居ちひろ(The Body in Cell Two,Kate Hohl,2023)★★☆☆☆
 ――1951年のアメリカ、メイン州。雨の降りしきる寒々とした10月のある日、塩湿地で発見された死体が警察署に運び込まれてきた。死体は空室になっていた第二房に一時的に置かれることになる。だが、捜査に出た警察長が何者かに襲われ、挙句の果てに第二房からしたいが消えてなくなってしまう。この奇妙な事件の真相とは――?(解説あらすじ)

 MWA新人短篇賞受賞作。やるせない、のかな……。警官襲撃事件の真相は、意外というより唐突過ぎてコントみたいだと感じてしまいました。
 

「聖なる墓地」リンダ・カスティロ/廣瀬麻微訳(Hallowed Ground: A Kate Burkholder Short Story,Linda Castillo,2023)★★☆☆☆
 ――オハイオ州の小さな町ペインターズ・ミルで、農作業をしている男性が偶然発見した人間の頭蓋骨。地元警察の署長ケイト・バークホルダーは捜査に挑むことになる。だが、行方不明届の出ている人間はおらず、未解決事件もない。何者かが町の外からやってきて頭蓋骨を遺棄したのだろうか? 事件は混迷を極めていき……。(解説あらすじ)

 MWA短篇賞受賞作。異文化問題。
 

『ターングラス 鏡映しの殺人(冒頭特別先行掲載)』ガレス・ルービン/越前敏弥訳

「『キングの身代金〔新訳版〕』刊行記念 翻訳者・堂場瞬一インタヴュー」聞き手:若林踏
 映画『天国と地獄』リメイクに合わせての刊行ではなく、堂場瞬一訳という企画が先に動いていたそうです。というか、再映画化とかでなくリメイクなのか。
 

「迷宮解体新書(141)本城雅人」村上貴史

「ミステリ・ヴォイスUK(144)メタ翻訳フィクション」松下祥子

「エイミー・ロブサートの死」シリル・ヘアー/(The Death of Emy Robsart,Cyril Hare,1959)★★☆☆☆
 ――映画『エイミー・ロブサート』の業界試写を兼ねたパーティーがプロデューサーの自宅で行われた。だが、パーティーが終わりかけて皆が帰り支度をしているその時、映画でヒロインを演じていたカミーラが窓から転落をして死亡しているのが発見される。それはまさしく、“エイミー・ロブサート”と全く同じ死に方だった……。(解説あらすじ)

 一つの偶然によってずれてしまった真相はミステリらしいものです。謎解きものではないので意外性にカタルシスを感じるというよりは、悲劇性にショックを感じました。
 

「おやじの細腕新訳まくり(36)」

「黄金の女」エリス・ピーターズ/田口俊樹訳(The Golden Girl,Ellis Peters,1964)★★★☆☆
 ――あの頃、おれはまだ新米で、オーリア号で働いていたんだ。もう十年まえになる。出航する直前、カップルが乗ってきた。とにかく女が大変なべっぴんでさ。妊娠しているらしくて、マタニティドレスをまとっていた。亭主のほうもこれがなかなかいい男でね。出航して二日目に避難訓練があった。たいていの女がそうだけど、彼女も救命胴衣をうまくつけることができなかった。で、おれが手伝っていると、そこへ亭主が慌てて戻ってきて、ひったくるようにして彼女を引き離した。だいたいずっとそんな感じだった。いつもどおりのんびりボンベイをめざした。ところが火事が起きたんだ。沈没は免れそうになかった。おれが見回りに行くと、あのカップルはふたりして不器用に救命胴衣を着けようとしていた。どうにか着けてから、おれは甲板に連れ出し、ボートが近づいてくると彼女の手をつかんで海上に放り出した。その瞬間、亭主が呪われたような叫び声をあげたんだ。

 カップルの正体についてはあらかた予想がつくので、語り口のうまさで読ませるタイプの作品ということになるでしょうか。タイトルがオチにもなっているし、長さもちょうどショートショートくらいの作品です。
 

『鬼神の檻(冒頭特別先行掲載)』西式豊
 アガサ・クリスティー賞受賞第一作。
 

「本誌季刊化のお知らせ」
 2025年から、今までの隔月刊から年4回刊の季刊誌になるそうです。早川書房ホームページによるとS-Fマガジンはそのままだそうです。意外な感じもしますが、SFを読もうと思ったらS-Fマガジンを読むしかないけれど、ミステリを読みたいならミステリマガジンでなくともいくらでも読めるでしょうし、そういうものなのかもしれません。
 

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