1991年初刊。
『月刊新小説』に分載された未発表作『白骨鬼』。江戸川乱歩の未発表作かと紛うその作品は、乱歩に心酔する若者の手によるものだった。それを読んだ幻の大作家・細見辰時は、細見のファンでもあるという作者・西崎和哉に会うことにした。警官だった祖父の日記に書かれた事件をもとに、主人公を乱歩と朔太郎に。
書けない苦悩から自殺しようとしていた「私」は、美青年・塚本直に助けられる。宿の女中によると、直は女装して月を眺める月恋病の患者だという。その直が崖際の松から首を縊って自殺した。しかも目撃者が駐在を呼びに行って戻ると、死体は消えていたという。シャーロック・ホームズのような恰好をして私の書生のふりをした萩原朔太郎君と一緒に事件を調べることにした。
乱歩の模倣はあまり上手くありません。だから作中作はただの昔が舞台のミステリでした。とは言え作中作という趣向は必要でした。一つには過去の事件にすることで科学捜査の目をかいくぐれることでしょう。乱歩作であることにも意味があり、乱歩の未発表作かと紛う作品を自分が書いたことにしたい――細見にそういった醜い野心があるというミスディレクションになっていました。乱歩というのがそれくらい魅力的な要素の象徴なのでしょう。
作中作は乱歩好みの【双子による入れ替わり】トリックです。振り袖と化粧による女装というこれまた乱歩好みが、【アリバイ作りのための第三者による変装】というところも乱歩風を上手く活かしてありました。
そして最後に細見が『白骨鬼』を手に入れたかった理由と事件の真相が明らかになりますが、あまり説得力がありませんでした。【※細見はモデルとなった事件の塚本直/均その人だった。警察はさらなる入れ替わりには気づいていなかった。自分の罪と真相は自分の手で明らかにしたい。】
乱歩の未発表作品が発見された⁉ 『白骨記』というタイトルで雑誌に掲載されるや大反響を呼ぶ――南紀・白浜で女装の学生が首吊り自殺を遂げる。男は、毎夜月を見て泣いていたという。乱歩と詩人萩原朔太郎が事件の謎に挑む本格推理。実は、この作品には二重三重のカラクリが隠されていた。奇想の歌野ワールド!(カバーあらすじ)
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