『本格ミステリを識るための100冊 令和のためのミステリブックガイド』佳多山大地(星海社新書)★★★☆☆

本格ミステリを識るための100冊 令和のためのミステリブックガイド』佳多山大地星海社新書)★★★☆☆

 タイトルにもある通りブックガイドなので、佳多山大地ならではのユニークな視点というのはあまりなく、知らなかった作品のなかから面白そうな作品を見つけるというごく普通のブックガイドとして読みました。

 麻耶作品について、「麻耶雄嵩中期の代表作はどれも尖った内容なのだけれど、初期の麻耶は若気の才迸ってもっと尖っていた」からといって初心者には中期作品をおすすめしているのが、確かにその通りなのですが妙に可笑しくて笑ってしまいました。

 佳多山大地ならではと言えるコメントは、城平京『虚構推理 鋼人七瀬』で見ることができます。「噓の解決篇」つながりで『オリエント急行の殺人』を「併読のススメ」に挙げるのは、厖大な読書量と固定観念に囚われない視点のたまものでしょう。こういう視点でおすすめされると、『虚構推理』と『オリエント』のどちらも再読したくなってくるものです。

 道尾秀介『向日葵の咲かない夏』が特殊設定ミステリだとは知りませんでした。泡坂妻夫チェスタトンの名前を出されると弱いので、鳥飼否宇『死と砂時計』は雑誌で何篇か読んだことがあったはずですが、また読み返したくなって来ます。

 『ハサミ男』と同じネタつながりで海野十三「赤外線男」。藤岡真という作家はまったく知りませんでしたが、『六色金神殺人事件』は何でもありのバカミスっぽく、ここまで振り切ってくれたら面白そうではあります。黒崎緑は『しゃべくり探偵』シリーズしか知りませんでしたが、『未熟の獣』は連続女児誘拐殺人事件もの。一人だけ両手首を切り落とされた被害者の謎に惹かれます。谺健二は鮎川賞受賞の震災もののイメージしかありませんでしたが、『赫い月照』は酒鬼薔薇聖斗を絡めたもので、現実をどう作品内に取り込んでいるのか気になります。

 一発屋のメンバーは『新本格ミステリの話をしよう』に書かれたものとほぼ変わっていません。そんななか「青春ミステリのベストスリー」とまで書いている『ヴィーナスの命題』と、「泡坂妻夫が『久しぶりに活字によるマジックショーに出会った』と最大級の讃辞を送った」という『見えない精霊』の二作にとりわけ目が行きました。二作目が出るまで十年以上というルールに引っかからなかったためか、佐々木俊介『繭の夏』がリストからはずされてしまいました。傑作なんだしそこは掬いあげて欲しかったところです。

 朝永理人『幽霊たちの不在証明』の帯に推薦文を載せているという、やや強引な繫がりから「併読のススメ」で紹介されているのが麻耶雄嵩『木製の王子』。細かすぎるアリバイ崩しについて、「ちゃんと読んでもいいし、いっそ読み飛ばしてもいい」というのは、まったくその通りなのですが、ここまではっきりと言い切るのが爽快です。

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