『刑事コロンボ 完全版』vol.1 DISC3(ユニバーサル)
「ホリスター将軍のコレクション」(Dead Weight,1971)★★★★☆
――特別監査があるから身を隠すよう不正の共犯者ダットン大佐から忠告されたホリスター将軍は、不正の発覚を恐れて大佐を銃殺する。母とヨットに乗っていたヘレンがそれを目撃し、警察に通報する。コロンボが屋敷を訪れると、将軍は軍歴を彩る寄贈品を詰めさせている最中だった。練習用の22口径を寄贈しようかどうか迷っているときに転んでしまったのを勘違いされたのだろうと、将軍はごまかした。その後、将軍は桟橋の管理人から目撃者の情報を入手し、ヘレンに会いに行く。その夜、将軍を特集した特別番組では、愛用のコルト45で活躍する将軍の姿が放映されていた。
エディ・アルバート、スザンヌ・プレシェット出演。第1シリーズ第3話。はじめのうちはコロンボがまるで疑っていないのが意外です。目撃者がかつて心の病気に罹っていたらしいというのも、疑わしさを薄れさせます。それだけに将軍がヘレンに会いに行くのは余計なことにしか思えないのですが、将軍にはそんな事情はわからないのだから、観てみる方がハラハラしてしまいました。それはそれとして、将軍のヨットを調べるために将軍との話を引き延ばすコロンボの手口はさすがでした。
意外だったのは、核心に近づくのが目撃者へのアプローチの方からではなく、死体の方からということでした。犯人のミスというより不運でしかありません。ヘレンが完全に洗脳されているのも犯人の戦術家としての手腕を物語っています。それだけにどこから証拠を手に入れるのかがまったくわからなかったのですが、優秀な将軍の人となりゆえの凶器の隠し場所というのは、将軍の英雄ぶりをたっぷり描いてきただけに、隠し場所の意外性と人物像の説得力を併せ持つ見事な結末でした(凶器移動の経緯がきちんと伏線として描かれていれば完璧だったのに)。
「二枚のドガの絵」(Suitable for Framing,1971)★★★★☆
――美術評論家デイル・キングストンはピアノ演奏中のおじマシューズを銃殺し、電気毛布で死体を温めておいて、部屋を滅茶苦茶にして泥棒の仕業に見せかける。駆けつけた愛人の画家にあとのことは頼み、デイルはアリバイ作りのため入れ替わりに画家のパーティに出かける。愛人はガードマンのパトロール中に発砲し、絵の包みを持って窓から逃げ出す。コロンボは鑑定眼のなさそうな犯人がドガのパステル画だけを盗んだ犯行や、警報が鳴らなかったことに疑問を覚える。そしてガードマンの証言から、逃げた犯人はハイヒールを履いていたと推理する。コロンボはパーティを主催していた画家や、前妻のマシューズ夫人に聞き込みに行く。
ロス・マーティン、キム・ハンター(エドナ・マシューズ夫人)、ロザンナ・ハフマン(トレイシー・オコナー)、ドン・アメチー(シンプスン弁護士)出演。第1シリーズ第4話。
コロンボ作品のなかには、犯人の計画自体が冒頭の段階では謎である場合もあるのですが、このデイルの計画は周到です。周到すぎるがゆえにコロンボの疑惑を深める結果になってしまいます。犯人の周到な計画と探偵の推理という正統派の倒叙を楽しんでいたところで、肝心の動機がなくなるという、動機の謎が出てくるところが上手いです。動機の謎とともに絵を二枚だけ盗んだ理由に通ずる計画の第二段階が始動するのも飽きさせません。ここにきて、ハイヒールの足音に早い段階で気づかれたのも、どうやらミスではなく計画の一環だったようだと判明します。罪を着せる(framing)のがタイミング的に綱渡りの蛇足のように見えてしまいましたが、初めから計画のうちだったようです。何よりあのタイミングでの工作だからこそ、忘れがたいラストシーンが生まれるわけですし。
愛人の画家の絵が本当に下手くそなのが笑ってしまいました。おばさんキャラが何人も登場して、揃ってコロンボをたじたじさせるのも可笑しかったです。
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