『ミステリマガジン』2025年1月号No.768【ミステリが読みたい! 2025年版】

『ミステリマガジン』2025年1月号No.768【ミステリが読みたい! 2025年版】

 季刊化第一号。

 大矢博子氏がアンケートで、「この手のランキングが数人の突出した作家で毎年似た顔ぶれになるのはつまらないなという理由から、ホロヴィッツとクレイヴンは「実際の面白かった度」からやや下げた順位にしてみた」と書いていましたが、今年の海外ベスト3はまさにその言葉通り、ホロヴィッツ、キング、ローレンス・ブロックという何の面白味もない結果でした。

 アンケートのなかでは、やはり山崎まどか氏のコメントがダントツで面白い。ミステリプロパーでは選べないラインナップなうえに、「「魔女」と呼ばれる人物が殺されるところから始まる物語で、段々殺人の全容が明らかになるつくり」の『ハリケーンの季節』や、「一九五〇年代の勧告のホテルにシャーリイ・ジャクソンが登場する」という『大仏ホテルの幽霊』など、妙に気になる内容でした。
 

 未知の作家で気になった作品は――。国内篇6位、潮谷験『伯爵と三つの棺』は、紹介文を読んでもどういう話なのかさっぱりわかりませんが、「三つの棺」というからには本格ものなのでしょう。国内篇20位、逸木裕『彼女が探偵でなければ』。

 1月のポケミスは、今年度のミステリが読みたい!新人賞を受賞した馬伯庸の、『西遊記事変』が刊行されるそうです。
 

「迷宮解体新書(143)月村了衛」村上貴史
 ノンシリーズ『虚の伽藍』を中心に。
 

「書評など」
『救出の距離』サマンタ・シュウェブリンは、唐突に湧いて出た〈スパニッシュ・ホラー〉なるジャンルの一冊。国書刊行会の同じシリーズではマリアーナ・エンリケスも刊行されています。

◆復刊・新訳からはエラリー・クイーン『Zの悲劇』(中村有希訳)、『境界の扉 日本カシドリの秘密』(越前敏弥訳)
 

「ミステリ・ヴォイスUK(146)とらわれの身と心」松下祥子
 蕪村の句「岩倉の狂女は恋せよほととぎす」を枕に、精神科病院が舞台の作品が紹介されています。
 

「華文ミステリ招待席(16)

ライプニッツはかく語りき」春申女君/阿井幸作訳
(莱布尼茨如是说,春申女君,2020)★★★☆☆
 ――喫茶店に座るビスクドールのような女性の名はダイアー、目が不自由な二十四歳。生まれてこのかた一筋の光すら見たことがなかった。アンナと知り合うまで、彼女は鳥かごで暮らすカナリアだった。家から二ブロック離れた失明者協会に行くのでさえ疲労困憊だった。しかし二十二歳の誕生日にアンナと出会ったのが幸運だった。白杖の音が聞こえ、喫茶店の自動ドアからショートカットの女性が入店した。「アンナ」「待った?」「ううん、来たばかり」数日前、ダイアーは手術の知らせを受けた。角膜を提供してくれる人が現れたのだ。「手術はいつ?」「日本旅行が終わったら入院するつもり」。だがその旅の後、アンナはダイアーを永遠に失った。……楠は有休中にもかかわらず殺人現場に呼び出された。視覚障害者の団体旅行客の一人がテトロドトキシン中毒で亡くなったのだ。どう考えても事故にしか思えなかったが、天然ふぐとは偽りで除毒処理が施された養殖物だから事故が起こるわけがない――と料理長が白状していた。

 これまでに掲載された華文ミステリ作家と比べると、文章自体が圧倒的に読みやすい。登場人物が『火刑法廷』を読んでいたり、タイトルが『メルカトルかく語りき』に由来するのではないかといったオタク臭さは相変わらずですが。ミステリとしては型破りで、「可能世界」と「現実世界」それぞれの悲劇がそれぞれ別個に書かれています。起こり得たかもしれない世界の方では嫉妬と殺人が起こり、刊行旅行先の日本の刑事が名探偵流のロジカルな推理で謎を解きます。毒の付着した場所から犯行機会を絞ってゆく推理は切れ味がありました。一方の現実世界の方では嫉妬も克服され手術も成功しますが、実は現実世界の方こそ【盲人用の擬似観光施設が現実化されているSF世界】だったという逆転した内容に、意外性がありました。作者名は「チェンシェンヌージュン」でしょうか。
 

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