『孤島パズル』有栖川有栖(創元推理文庫)★★★☆☆

『孤島パズル』有栖川有栖創元推理文庫

 『The Island Puzzle』1989年。

 学生アリスシリーズの2作目です。今回の推理研メンバーは江神とアリスとマリアだけ。織田と望月はお留守番です。

 三人が嘉敷島に渡った理由は、マリアの祖父が遺した宝物(ダイヤモンド)の在処を巡る宝の地図と宝探し。血生臭い殺人事件とは遠く離れた少年探偵団的なわくわくに満ちています。

 しかしそこは有栖川氏のこと、宝探しはさほどフィーチャーされません。巻頭に島の地図こそあるものの、島に点在する木製のモアイ像を記した宝の地図すら明示されません。ヒントとなる図形が発見された時点で図が明示されることを考えれば、探偵と読者が同じ土俵で勝負できるフェアネスのため、とも考えられますが、むしろ本領は暗号解読ではなく犯人当てということなのでしょう。隠し場所のヒントが明示されたあとはさしたる試行錯誤もなくあれよあれよと江神によって解かれてしまいます。

 メインはやはり途中で起こる殺人事件ということになるのでしょう。一つは凶器のない密室での連続銃殺事件です。太腿を撃たれて失血死した被害者と、その上に折り重なるようにして胸を撃たれて倒れていた被害者。心中だとすれば、太腿を撃たれた者が自分を撃ってから凶器を始末したことになりますが、遺体は下になっていた=先に死んでいたという矛盾が生まれてしまいます。

 そして二つ目の殺人事件。第一の殺人が密室だったのに対し第二の殺人は、散らばったジグソーパズルというダイイングメッセージと、宿泊場所とは正反対の場所にある殺害現場というアリバイものになっていました。

 このアリバイというのが秀逸でした。宝のヒントを記した紙片が落ちていたことによって宝探しに進展があり、その同じ紙片を踏んだ自転車の跡から犯人特定に繫がるというように、一つの紙片に二つの意味を持たせているところなど、本当によく出来ています。

 アリスとマリアの単なる青臭い青春談義に思えたボート漕ぎと自転車での戯れ言にしても、犯行時刻を狭めるだけでなく、最終的には【ボートが使えない状況で被害者の自転車で往復する理由のある人物は誰か(=泳げる人物が犯人)という】犯人特定にも一役買っていました。

 アリバイ崩し自体はやや複雑ではありますが、三日月型の島の盲点を突いた単純明快なトリック【※陸路では遠いが海路なら近い】には目から鱗でした。

 第一の密室事件にしても、痴話喧嘩が伏線となった動機【※父が自分より先に死んだことになれば遺産が夫に行くため、犯人に襲われて致命傷を負った時点で、父が確実に死ぬよう鍵を閉めて密室にし、自分の方が父より後に死んだと思われるように父の上に重なって倒れた】によって、密室の謎がいとも簡単に明らかになるなど、さり気ない伏線描写と単純な真相というのは理想的な謎解きでしょう。

 とは言え宝探しがあっさりだったのと、アリバイが複雑だったのとで、大傑作とまでは言いづらいものがあります。

 また、マリア自身の事件という趣向とマリアの失踪は、本書だけ読むかぎりでは意味があるとも思えませんし、そもそも事件の最中はそこまで深刻ぶってもいなかったので、違和感を感じてしまいました。

 紅一点会員のマリアが提供した“余りに推理研的な”夏休み――旅費稼ぎのバイトに憂き身をやつし、江神部長以下三名、宝捜しパズルに挑むべく赴いた南海の孤島。バカンスに集う男女、わけありの三年前、連絡船の再来は五日後。第一夜は平穏裏に更けるが、折しも嵐の第二夜、漠とした不安感は唐突に痛ましい現実へと形を変える。晨星落々、青空に陽光が戻っても心は晴れない……。(カバーあらすじ)

 [amazon で見る]
 孤島パズル 


防犯カメラ