『紙魚の手帖』vol.20 2024 DESCENBER【創立70周年記念】

紙魚の手帖』vol.20 2024 DESCENBER【創立70周年記念】

しあわせのかたち」町田そのこ

「サイン 永見緋太郎の事件簿」田中啓文

「蓋互山、蓋互山 無常商店街2」酉島伝法

「噓つき美登里」嶋津輝

「不死者の物語―革命家」川野芽生
 ――殺されれば死ぬさ、とやつが言い、では試してみようとおれは銃口を向けた。ルーシドールは紅顔の美少年だった。初めて出会った十年前の頃から。高貴な家の出であることは推し量れたが、当の本人が年齢も素性も綺麗に忘れ去っている。おれたちは旧体制を破壊した新しい時代の申し子のはずだった。だがおれたちはあっという間に老いていき、そのあともルーシドールのようなやつらは永遠の青年のままなのだ。銃を握った手をゆっくりと持ち上げる。手が震えている。/銃声が響いた朝、わたしたちの一人は血を流して倒れていた。同じ日、わたしたちの一人が行方不明になった。二人は盟友であった。彼らは革命の功労者である。わたしたちはこの国を牛耳るあの忌まわしい不死者どもを根こそぎにした。われわれはしかし、反逆者ではない。皇帝陛下の忠実な僕だ。だが皇太子が新帝に即位しても、暮らしはまるでよくならなかった。それゆえわれわれは直訴を試みた。目にした皇帝は異様に若かった、という。――皇帝は不死だ。噂は国中を駆け巡った。

 不死者シリーズ、であるらしい。
 

「輪廻の果てまで愛してる」米澤穂信 ★★★★☆
 ――どうしてこんなことしたかって訊かれても、一言じゃ言えないんだよね。長くてもいいの? じゃあ、話すけど。あたし、悪い事ばっかしてたんだよね。まず、噓つきだった。でさ、噓つきは泥棒の始まりって言葉を聞いてさ、あたし感動したんだよね。昔の人はバカじゃないねって。だってあたし、泥棒もかなりやったから。でも万引き仲間が一人ずつ捕まっていって、そいつら仲間意識なんて知らない連中だから、あたしもパクられるの時間の問題でさ。だから一人で東京に出たんだよ。最初は真面目に働いて、ちょこちょこお金盗っていくんだけどさ、東京は怖いところだね、すぐバレた。そんなことしてるうちに、あいつに会ったんだ。あいつはあたしと違って、いい子だったんだよ。盗んだり、殴ったり、騙したり、そんなのぜんぶあいつの世界にはなかった。あいつが笑うと、あたしのこれまでの全部が許されるような気がしたんだ。でも、それはやっぱり勘違いでさ。

 少女の語りによる犯罪小説という変化球かな?と思わせておいて、何が起こっているのかわかったときにはすべてが終わっていて、それまで語られて来たことが狂人のロジックによって繫がって来るという、ミステリのお手本のような作品でした。
 

「紡ぎ女」アン・クリーヴス/玉木亨訳(The Spinster,Ann Cleeves,2014)★★★☆☆
 ――お隣さんでは新たな家を建てるための下準備が進行中だ。削岩機が視界に入っていることで、ジョーンは落ちつかなかった。紡ぎ車のリズムが崩れ、太さにむらがあったり玉ができたりしていた。ジョーンが十歳のときにアニーが、つづいてエディが生まれた。エディはいま遠くで暮らしていて、アニーはつい二年ほどまえに癌で天に召された。三人とも結婚していなかった。その機会に恵まれそうだったのは、一九七〇年代だった。ジョーンはそのころ三十代で、すでにいき遅れと見なされていた。ジェイムズ・マッキー。物静かで礼儀正しい、スコットランド本土からきた男。姉妹は夜眠ると彼の夢を見た。自分は年上すぎると思っていたジョーンさえも。ドアを叩く音がして、ジョーンは現実に引き戻された。ペレス警部だ。「夜のこんな時間に、なんの用かしら?」「スチュアートが新しく建てる家の工事をしているんだ。そしたら、そこで死体が見つかった。なにか知らないかな? あなたはこの家で暮らしていたはずだ」

 ジミー・ペレス警部シリーズ。ミス・マープルのような老婆の口から明らかになる、意外な過去。本篇のあとには著者による創立70周年のお祝いコメントもありました。
 

「『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』出張版 BACK TO THE 50'S!」川出正樹
 ポケミスと『世界推理小説全集』について。
 

「エッセイ わたしと東京創元社」今村昌弘、越前敏弥、大倉崇裕桜庭一樹麻耶雄嵩、ローラン・ビネ「第9回 アシアトカクシ、オオユキフラシ」熊倉献
 ――「アシアトカクシは雪山にあらわれて人間の足跡を消して道に迷わせる恐ろしい怪物です」雪山を独り歩く女性の後ろに、いつの間にかアシアトカクシが現れていた……。

 フシギ系のイメージも強い作者ですが、この作品には「何が青春だ クソが」の面が現れていました。
 

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