『高原英理恐怖譚集成』高原英理(国書刊行会)★★☆☆☆

高原英理恐怖譚集成』高原英理国書刊行会

 著者には幻想小説を期待していましたが、ホラーばかりで好みに合いませんでした。
 

「Ⅰ」

「町の底」(2009)★★☆☆☆
 ――近辺を歩いていると、後ろから顔の半分ない子供がついてくる、という都市伝説があると最近知った。関係者に話を聞いた。昭和十九年の末、当時十歳の明夫少年は仲間四人と遊んでいた。突然悲鳴があがり、血に濡れたよし坊が駆け出してきた。顔面左半分が削ぎ取られていた。ところが塀の向こうには誰の姿も見えず、親からはひどく叱られた。よし坊は風邪で家にいるというではないか。二〇〇八年に流布する話とは異なっていたが、どうして都市伝説が生じたかはわかった。既にその地の地層にあった物語なのだ。老人の話にあった村の名前に聞き覚えがあり、家の書架から資料を探した。養子縁組の補助金目当てに村ぐるみで子供を引き受け、深い穴に投げ落として餓死させていたという事件だ。穴から逃れた子がいて、村民から蜈領と呼ばれたという。

 I部とⅡ部は『抒情的恐怖群』からまるごと収録。残酷描写はあるものの、スプラッタとも言えません。血は飛ばず、ただ紙をめくるように肉が、内臓が、剥がされてゆく、無残絵のようです。都市伝説から始まり、その奥に眠る歴史の暗部に分け入ってゆく過程は、怖いもの見たさという自分自身の悪趣味を突きつけられているようでもあります。ところが語り手をも巻き込むカニバリズムの話になってしまった時点で安っぽい三文小説に堕してしまいました。
 

「呪い田」(2009)★★☆☆☆
 ――田深町《たみちょう》二番地一六、そこにある二階建ての家が発端だと思う。住人は田波さんといった。四人家族で、弟の育平君というのが、中学の友人にこんなことを告げたという。「姉ちゃんには絶対開けるなって言われてたんだけど」姉の邦子の押入れを覗いてみると、仏壇のようなものがあり、皿に髪の毛みたいのが載せてあった。折も折、邦子と同級の女生徒が交通事故で死んだ。邦子が呪い殺したという噂になった。邦子が首を吊り、その葬儀も終わらないうちに育平がおかしくなった。薬が合わず投薬できないため、霊能力者を呼んだが、祈禱師は家の前でトラックに轢かれた。同じ頃、父親が職を失った。一家は夜逃げのようにしてどこかへ去った。だがこれで終わらなかった。隣の伊田家に異変が起きた。さらにその数日後には、伊田家に隣接する太田アパートで大学生が死んでいるのが見つかった。

 伝播してゆく呪いという現象は、人間にはどうにもできない天災のようで絶望感がありましたが、泥田坊との関連付けがあまりに強引で一気に興醒めしてしまいました。読み終えてみればすべて狂人の妄想だったという話なので、理屈の詰め方に強引なところがあっても当然ではあるのですが、小説としては、妄想だからこそ説得力が必要だと思います。黒いつぶつぶが泥田坊だというのも、気持ち悪さは満点ですが同時に笑ってもしまいました。伝播のキーが田んぼという、田んぼづくしは感心しました。
 

「帰省録」(2009)

「緋の間」(2009)
 

「Ⅱ」

「樹下譚」(2009)

「グレー・グレー」(2008)

 アンソロジーで既読。
 

「影女抄」(2009)★★☆☆☆
 ――最初に違和を感じたと言うなら、あの異質な人たちに、老いも若きもなぜこだわるのかということ、その老若の仲間として自分もまた「女」だと言う。仲間たちとだけ、みずみずしくやわらかく、手に手を取りあって生きていたいのに、必ずあの人たち、「男」と自称し他称される種類の人々が割って入るのが峰子にはいらだたしい。十九歳のとき知った一人の、小柄で色白の、何より肌の美しい、あどけない顔の女生徒が、峰子にはもう息も止まりそうなほど欲しかった。ミオのことばかり考えて過ごした。二重に不利だと峰子は思った。同性を愛するということなら場合によれば胸張って認めることもできる。しかし、自分の過度の嗜虐性、加害欲は、いかに同性愛を肯定する相手をも遠ざけてしまうだろう。

 Ⅰ部が「ストレートな恐怖譚」であるのに対し、Ⅱ部は「怪奇なシチュエーションのもとに語られるラブストーリー」だそうです。レズビアンのサディストが運命の相手と出会って思いを遂げると言えば確かにその通りですが、サディストであるがゆえにその光景は必然的にホラーにしかなり得ません。
 

「Ⅲ」

「闇の司」(2001)★★☆☆☆
 ――凄惨極まる映画『女殺油地獄』の撮影中、撮影直後に起こった連続殺人。被害者は主演女優を含む三人で、いずれも残虐に、そして猟奇的に殺された。手がかりは女優のひとりが死に際に書き残した「オニ」という文字。次に殺害される危険を感じた撮影カメラマンのわたしは、撮影所のある仮名手町界隈を調べはじめるのだが……(ハルキ・ホラー文庫版あらすじ)

 秋里光彦名義。著者後記によると、角川ホラー大賞審査員に「凄いがそれ以上のものがない」と言われたそうですが、至言です。グロテスクで下品な残虐描写が、格調高い美文によって紡がれるギャップには、確かに覆った指の隙間から目を離せなくなるような中毒性があるものの、見世物小屋の覗き見趣味と言われればそれまでではあります。鬼の屋敷に宿泊してからの夢うつつの場面転換や、赤い部屋や白装束の美女といった断片には、鏡花を思わせるような幻想性があり、とにかく残虐描写とのミスマッチが甚だしい。鬼に生贄を捧げて日本を守る裏の支配者「闇の司」というように、真相がチープなのはデビューから一貫しているようです。
 

「Ⅳ」

「水漬く屍、草生す屍」(1986)

「かごめ魍魎」(1988)

「よくない道」(2002)

「日の暮れ語り」(2002)

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