『The Case of Alphabet』2002年。
読む人のミステリへの度量の広さが試されそうです。個人的には、ミステリとして許容できる作り物の範疇を越えていました。
舞台女優の橘未衣子は、看板女優の美久月美由紀、不可能犯罪専門の探偵ディと共に、アルファベット荘に向かっていた。別荘の持ち主である美術商・岩倉清一から招待されたのは初めは美久月だけだったのだが、美久月が未衣子も一緒ならと駄々をこねたのだ。
アルファベット荘は庭にアルファベットのオブジェがある異様な建物だった。別荘にはほかに、興信所の探偵・遠笠麗、芸術犯罪の研究家・三条信太郎、賞金稼ぎのカップル・古池ミノルと泉尾桜子ら招待客と、たまたま訪れた岩倉の友人であり考古学と美術品が趣味の文筆家・春井真那、それに臨時で雇われた家政婦の藤堂あかねと破麻崎華奈だった。肝心の岩倉の姿はなく、遠笠によれば岩倉は外国で死んでいるという。
別館の広間には所有者を不幸にすると言い伝えられた『創生の箱』があった。かつてドイツで、蓋に鍵の掛けられた状態で中からバラバラ死体が出現したこともあったという。
招待者の目的は何なのか。岩倉は生きているのか――。果たして降雪のなか惨劇は起こった。本館の大広間に移動された『創生の箱』のなかから、招待客の死体が発見されたのだ。だが庭に積もった雪には箱が移動した形跡も、人が歩いた形跡もなかった……。
不可能興味あふれる作風は魅力的です。アルファベットのオブジェというあからさまなギミックもフェアネスの表れと取れます。しかし肝心の物理トリックが何とも言えないものでした。
ドイツの事件(と『創生の箱』の秘密)の真相は、実際のマジックをアレンジしたもの【※蓋の裏に隠しておく】であるだけによくできています。さすがに映像化したら丸わかり【※蓋が30cmあるので凍らせてバラバラ死体も隠せる】とはいえ。
でもまあ、作り物のミステリなのだから、現実不可能でも問題ないのです。ところが移動した箱と死体の謎に関しては、現実に不可能という以前に文章上でも不可能だと感じてしまいました【※死体を車輪付きの箱に入れて移動しやすくした状態で、飛び石状のアルファベットの横棒を足がかりにして紐で引っ張った】。
記憶のない探偵という設定が無意味なままなので、恐らくシリーズ化も考えていたのでしょうが、結局これ単発で終わってしまったようです。
自ら外部との連絡手段を断つ人間がいたり、春井を取り合う女たちなど、ギャグと思われるものがどれも空回りしています。連絡手段が断たれたことで事態が動いてしまうだとか、恋敵同士が牽制し合うことでアリバイが成立するだとかいった、作品上の意味もありません。
動機もひどいものでした。【※幼いころにドイツの事件を共に目撃して犯人を見抜いた少女を探すため、探偵能力のありそうな女性を招いて事件を起こして解決させた。そして女性の才能に対抗するために自身の犯行を芸術犯罪で飾り立てた。】
雪が舞う岩手県の山奥、アルファベットのオブジェが散らばる『アルファベット荘』に集った個性的な面々。だが屋敷の主は現れぬまま夜は更けていく。翌朝、いわくつきの美術品『創生の箱』から招待客の死体が見つかるが、そこに行くために通らねばならない庭の雪に足跡はなく……。売れない役者、変人にして小劇団の看板女優、そして何も持たない探偵が幻想的な事件を解き明かす!(カバーあらすじ)
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