虚構推理シリーズ第四作。コミック版では12巻~14巻及び17巻に相当。コミック版に収録の「見たのは何か」は未収録。
「第一話 雪女のジレンマ」★★★☆☆
――雪山で友人に殺されかけた室井昌幸は、雪女に命を助けられた。後年、妻に浮気され離婚したうえ同僚に会社を乗っ取られた昌幸は、町で雪女と再会し、同居することになる。そんなとき、元妻の美春が何者かに殺され、動機の面から昌幸に容疑が浮上した。死亡推定時刻にはアリバイがあったが、アリバイの証人は雪女だった。
アリバイがあるのにそれを証明できない(『幻の女』とは違った意味で)という設定は面白いし、八百屋お七めいた倒錯した動機も好きですが、岩永がよくやる真の目的を受け入れさせやすくするための捨て推理がこの作品の場合はくどいうえに難解で納得しがたいところがありました。
「第二話 よく考えると怖くないでもない話」★★☆☆☆
――九郎が便利屋のアルバイトで整理しに入った家には何かが出るという噂があった。だがその話を聞いた岩永は、噂は噓だと断言した。
掌篇。人間の方が怖い云々の真相よりも、岩永の皿回しばかりが記憶に残る話です。
「第三話 死者の不確かな伝言」★★★☆☆
――怜奈が偶然出会った桜川六花は、高校時代同じサークルに在籍していた岩永琴子の恋人・桜川九郎の従姉だった。怜奈は当時岩永が相談を受けたダイイングメッセージにまつわる事件のことを六花に聞かせた。商社勤めの大橋礼太郎がハンマーで頭を割られて死んでいるのが見つかり、血文字で「タケヒコ」と書き残されていたことから、会社のライバル中村沢岳彦に容疑がかかった。だがすぐに真犯人が自首して事件は解決した。被害者が中村沢に殺されたと思い込んでタケヒコと書き残したらしいが、犯人扱いされた中村沢は収まらない。
ダイイングメッセージの真意をさぐるのではなく、中村沢の愚痴に辟易している同級生の悩みを取り除くという目的のため虚構推理をおこなうというのが、いかにもこのシリーズらしいひねくれ方です。それを読者に納得させるために、ダイイング・メッセージの恣意性についてミステリ・サークル内でディスカッションする描写を効果的に挟んであるのも上手いところです。
「第四話 的を得ないで的を射よう」★★☆☆☆
――弓矢を拾った猿の妖怪二匹が、弓矢は自分のものだと譲らないため、岩永は九郎の頭に置いたリンゴを最初に射抜いた者に弓矢の所有権を与えることにした。
掌篇。猿たちに弓矢の勝負を提案した岩永の意図よりも、射抜かれた九郎のインパクトが大きすぎました。掌篇は何だかんだ言って岩永と九郎のイチャイチャが目立ちます。
「第五話 雪女を斬る」★★★★☆
――無偏流剣術には三つの秘剣があった。開祖・井上又右衛門も最後の秘剣『しずり雪』だけは完璧とはいかず、修行に出たまま消息を絶っていた。その三十八年後、時は徳川家斉の頃、峠に雪女が出て、侍に恨みでもあるのか、刀を持つ者を襲う事件が起こっていた。免許皆伝・白倉半兵衛は雪女を斬り、『しずり雪』を会得したとされている。無偏流は隆盛し、半兵衛の養子となった勇士郎も群を抜いて剣才があった。そんなとき、半兵衛が正面から頸動脈を切られて血まみれで倒れているのを発見された。「ゆきおんな」と言い残して。正面から半兵衛を斬るなど並の者とは思えず、峠で斬られた雪女の呪いではないかと噂された。そして時は現代、白倉家の子孫・静也は岩永に相談していた。雪女は実在するのか――と。自身が雪女と半兵衛の間の隠し子の子孫なのではないかと疑っているらしい。
中篇。「雪女のジレンマ」に続いて雪女が登場します。掌篇を除けばすべてダイイングメッセージものでもありました。剣豪小説の一面もありました。恐らくは小泉八雲の影響からか、雪女は情が深いというイメージがあり、本書でも雪女の情の深さがポイントになっていました。不可能犯罪ものとしてもダイイングメッセージものとしても、登場人物たちに情があるからこそ成立しています。岩永は静也に対し、自身が雪女の子孫であるということを受け入れさせるために、雪女が存在しない場合の残酷な推理を先に語って対比させることで、雪女の子孫であることを受け入れやすくしていました。真実を語っているだけなのに、敢えて噓を語ることで真実を受け入れやすくさせている手際が、詐欺師のように鮮やかです。
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