親本1984年4月刊行。
富樫幹夫は従妹の蘇芳貴詩から、会わせたい人がいるから新宿のホテルに寄ってほしいと電話で頼まれた。小野口刑事からも面会を打診された幹夫は、新宿のホテルで待ち合わせることにした。四月前、二人の祖母である蘇芳カナが殺害された件だ。
カナは「皺鬼」と呼ばれる女帝だった。孫娘の貴詩を目の中に入れても痛くないほど可愛がり、先妻の子である幹夫の母・勝江を邪険に扱い屋敷から追い出してしまった。それがどうしたわけか喜寿の祝いに勝江たちを呼び寄せた。喧々囂々の翌朝、カナは鴨居から首を吊った状態で発見された。発見者は息子の龍太であり、幹夫と婚約者も現場にいた。その後の調べでカナは絞殺されたあと吊るされていたことが判明していた。
婚約者の島夕輝子とともに新宿に着いた幹夫は、小野口刑事から新たに見つかった手がかりを見せられる。割れたレコードの破片とそれを包んでいたスカーフを見た夕輝子は息を呑んだ。あの日自分が着用していたスカーフだったからだ。
結局貴詩の言っていた待ち人はホテルには現れず、幹夫たちは貴詩から頼まれていた通り山形の屋敷に寄って貴詩のスーツケースを運び出してから仙台の結婚式場に向かうことにした。
貴詩は死んだ母親に似て線が細く、カナから溺愛されたせいでいつまでも独り立ちできずにいた。一度目の結婚には失敗していたが、そんな貴詩が今度は自分から色摩将樹との結婚に積極的なようだ。それでも、一人では心細いからと、一緒に結婚式を挙げてくれと幹夫に頼む始末だった。明日がその貴詩と色摩、幹夫と夕輝子の結婚式なのだ。
ところが山形の屋敷に行く途中に立ち寄ったサービスエリアで、知り合いから貴詩が行方不明だと聞かされ、屋敷で叔父・龍太と色摩と合流した幹夫たちは、貴詩を探しに行くが……。
医学部出身の刑事っぽくない小野口刑事のキャラクターが秀逸です。「私は仕事が辛くなると、名探偵になります」「じゃ、今度の事件もおおよその結論は出ているのですか」「それも出ていません。何しろ、架空の名探偵ですから」と、現実逃避。いいなあ。小野口刑事でシリーズ化して欲しかった。
一つ目の事件も二つ目の事件も、タイトルの由来でもある〝二度殺されている〟ことが不可能状況を作り出すキーとなっていて、それぞれ違った処理がされているところが読みどころでした。
カナ殺しにおける、【自身が目撃者となるための死体を利用したアリバイトリック】自体はさして驚きはしなかったものの、足袋、箪笥の抽斗の傷、死後硬直といった細部の詰めはさすがです。
二つ目の殺人は【蘇生した被害者を移動中に再び殺して別の場所に遺棄する】という、偶然からとはいえアリバイと不可能性を生み出した凄みのあるものです。そんな犯行方法以上に見どころなのが、何と言っても、髪型についてのからかいや、被害者の迷信深さへの言及といった犯人に繫がる伏線の数々でしょう。特に後者は「DL2号機事件」のロジックを彷彿とさせるもので、いかにも被害者らしいと思われたエピソード【「烏が変に啼いたから、ドライブには気を付けるように」(p.51)】が、逆にほころびとなってしまう逆転の構図が見事です。
ここからはこれぞ泡坂妻夫というべき伏線回収ラッシュで、古新聞の記事(p.23)やカーラジオ(p.30)の内容が動機に繫がる要素だったのはまだ序の口で、ロマンスの始まりに見える描写(p.36)すら動機に関わる事件から発生したものだったというのですから、脱帽です。
二つ目の殺人の動機は【口封じと財産目的】でしたが、犯行に至るまでの犯人の境遇の重さと被害者の無邪気さゆえの愚かしさからは、例えばクリスティー『鏡は横にひび割れて』あたりとはまた違ったやるせなさを感じました。
蘇芳家の者たちの迷信深さに加えて、白い蝶の怪談をめぐる呪い(p.236)もあるうえに、最後には探偵すら願掛けするという、迷信づくしがお洒落でした。
山形県米沢の旧家蘇芳家の当主カナが二度殺された! 喜寿の祝いの夜、犯人はカナを絞殺し、翌朝、さらに鴨居から吊ったのだ。
半年後、事件の目撃者・富樫幹夫が結婚式を挙げるのと同時に、挙式予定の従妹・貴詩が、その前夜、死体となって発見された。
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『花嫁は二度眠る』