『からくり東海道』泡坂妻夫(光文社文庫)★★★☆☆

『からくり東海道泡坂妻夫光文社文庫

 親本1996年刊行。

 尾張徳川家の江戸下屋敷戸山山荘は、各地の宿場町を模した二十五景で知られていた。角兵衛獅子の児のみつは、薬屋の古駅楼を見て絶句した。昔、この店を見たことがある――。獅子の児みつと文吉は大久保なる侍に招かれてからくりだらけの奥の庭を見せられた際、お堂にあった金の仏像をくすねてしまう。一方、庭の外ではどこかの若様が毒殺されたらしく大騒ぎになっていた。

 十年あまり後、質屋の奉公人となっていた文吉は、ご隠居の旅の供で小田原を通った折り、薬屋の虎屋が古駅楼そっくりであることに気づいた。翌日、文吉はみつと再会する。みつはたかと名を変え、弟分の又十と盗っ人となっていた。ご隠居から孫娘のお力との縁談を打診された文吉は、お力の気性に嫌気が差していたこともあり、市次と名を変えてたかと又十と行動を共にすることにした。

 又十は幼いころに古駅楼を見たことがあり、母親から蒔絵の杯を預けられていた。杯には箱根の景色が描かれており、金色に描かれた夜泣石こそ、黄金の眠っている印なのだと、たかは言う。それというのもたかの父親は金山奉行の大久保長安が隠したと言われる埋蔵金に夢中になり、昔そこいらじゅうを掘り返していたが、夜泣石のあたりも掘り返していたという。

 さらに数年後、米問屋の隠し財産を見つけた市次は、そこで思わぬ人物と再会する……。

 この景色、見たことがある――という、クリスティー『親指のうずき』を思わせる冒頭の謎に引き込まれるのですが、それに留まらず序盤から怒濤のごとく物語が動き出す贅沢な作りです。市次とたかはトミーとタペンスみたい――とはなりませんでしたが。

 箱庭みたいなものが出てきた時点で財宝の在処はわかったも同然ではありますが、埋蔵金という夢のあるネタに加えて、尾張家の跡目争いまで絡み、果ては日本を飛び越えて世界にまで広がるスケールの大きさに目を瞠ります。

 しかもその大元となる出来事や事物がすべて第一章の時点で描かれているところがさすがです。殊に、大久保殿が文吉たちに仏像のお堂の錠を開けさせた理由が、終盤になって跡目争いと関わってくる【※対立派を失脚させるために仏像紛失の責を負わせた】構図にはしびれました。

 からくり屋敷は出て来ますし、東海道づくしを隠すために別の景勝地に上書きするのも企みという意味でのからくりと言えなくもありませんが、『からくり東海道』というタイトルの割りには、からくりはさして目立たず、そこは残念です。

 初期の作品とは違って派手さはないものの、凝りに凝った作品であることは間違いありません。

 天保十年正月。尾張藩江戸下屋敷で余興を演じた角兵衛獅子のみつと文吉は、屋敷の庭に〝宿場町〟が造られているのを見た。

 十年後、文吉は、小田原宿でたかと名を改めたみつと再会。美少年を引きつれ、悪事を働くたかと手を組む文吉。三人は、箱根山中に眠るという大久保長安埋蔵金を狙うが……。

 奇抜な発想、幾重にも仕掛けを絡ませた痛快時代ミステリー。(カバーあらすじ)

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