『ゴースト・ストーリー(上・下)』ピーター・ストラウブ/若島正訳(ハヤカワ文庫NV)★★☆☆☆

『ゴースト・ストーリー(上・下)』ピーター・ストラウブ/若島正訳(ハヤカワ文庫NV)

 『Ghost Story』Peter Straub,1979年。

 作家のドン・ワンダレーがアンジー・モールと自称する少女を誘拐して移動するロード・ムービーのような序章から本書はスタートします。ドンは元恋人のアルマ・モブレーが兄のデイヴィッド・ワンダレーを死に追いやったと考えているらしいのですが、それが逃避行とどう繫がるのか、少女は何者なのか、わからないままプロローグは幕を閉じます。

 第一部に入っても物語の形はなかなかはっきりしません。ドンの叔父エドワードも所属していたチャウダー協会なる集まりで、かつて招いた女優アン=ヴェロニカ・ムーアのせいでエドワードが死に至ったらしく、弁護士リッキー・ホーソーン、弁護士シアーズ・ジェイムズ、実業家ルイス・ベネディクト、医師ジョン・ジャフリーら協会のメンバーが、事態を打開するため同じく作家である甥のドンを呼び寄せようとしているようです。さらには五十年前にエヴァ・ギャリなる女をめぐって何かがあったらしいのです……。

 そうしたなかシアーズが子どものころに体験した怪談を語り始めます。教師だったころの教え子が、虐待していた兄の幽霊に悩まされる話なのですが、これが怖いというよりおぞましい内容で、ここに来てようやくホラーらしくなって来ました。

 ところが上巻で盛り上がるのはこのシアーズの怪体験とプロローグのロード・ムービーくらいで、基本的に多視点複数エピソードがだらだらと続きます。

 もちろん人が死んだり幻覚を見たりといったホラー要素はあるのですが。強烈な引きとなるはずの謎を引きに使わないで放置したまま次の話に進んでゆくので、わくわくというよりいらいらするんですよね。ここらへんは下巻のあらすじ紹介で言及されていた『IT』の作者スティーヴン・キングはさすがに上手い。キングも小説自体は下手くそだと思うのですが、盛り上げ方が圧倒的に上手いです。

 下巻に入っても事態はさして変わらず。不良二人が幽霊屋敷(?)に入っていくところで少し持ち直したかなと思いかけたものの、怪異自体はシアーズの怪談と大差なく単調です。

 下巻も中盤になってエヴァ・ギャリの謎が明らかになりますが、さんざん引っ張ったわりにそんなたいした因縁もなく拍子抜け【※もともと町の男を破滅させようとした魔性の存在が、うまくやれずに反対にルイスたちに殺されてしまい、復活して復讐を誓う】。まあとにかく、やばいのに目を付けられてしまったということなのでしょう。

 古今のゴースト・ストーリー云々というキャッチ・コピーは、著者がこの作品を書くに当たって古今のゴースト・ストーリーを読み込んだというエピソードのほか、作中でも「これまでに書かれたあらゆる幽霊小説や怪奇小説の背後にいるんです。彼らは、われわれが恐怖を抱く怪奇現象すべての源なんです」等と語られていることに由来するのでしょうが、結局のところその描き出し方がスティーヴン・キングの真似事というか、ただの毎度毎度のモダン・ホラーでしかないので、看板倒れという印象です。モダン・ホラーが好きな人なら問題ないのでしょうか。

 しかも『IT』や『何かが道をやってくる』のような作品の場合は、子どもたち(+大人)が主人公だから青春小説の趣もあったし恐怖が真に迫っていたのに対し、本書の主要人物たちは初めから大人なので、いい大人が何をやってるんだか……という戸惑いも常につきまとってしまいました。

 【※それでも何とか倒して、復活して数年後に少女にまで育ったA・Mも倒すべくプロローグに戻ってジ・エンド。

 訳者はもともと直訳調のきらいはあるのですが、トマス・アキナスやナルシッソスという原音読みとも英語読みとも違う表記はともかく、「ピーターは腕をふりあげた。母の顔は真っ青になり、舌が飛び出した。彼は夢中で喉の奥から猫のようなうなり声をあげ、男に狙いを定めた。二本の冷たくて小さな手が彼の手首をつかんだ。何日間も太陽にさらされた動物の死骸のような腐臭が、波となって押し寄せた。」(下巻p.171)となると意味不明でした。3つ後の章を読んでようやく、男を攻撃しようとしたピーターの腕を男の仲間が摑んだ描写だとわかりました。

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