「神国崩壊」獅子宮敏彦、「メェゾン・ベルビウの猫」椿實、「夕べにはパズルめいて」城平京、「明智小五郎の黄昏――誰が明智小五郎を殺したか?」「傀儡のように踊れ――江戸川乱歩『目羅博士』試論」佳多山大地(『ミステリーズ!』02、『創元推理』18・6・9)

「神国崩壊」獅子宮敏彦、「メェゾン・ベルビウの猫」椿實、「夕べにはパズルめいて」城平京、「明智小五郎の黄昏――誰が明智小五郎を殺したか?」「傀儡のように踊れ――江戸川乱歩『目羅博士』試論」佳多山大地(『ミステリーズ!』02、『創元推理』18・6・9)

 古本整理のため読み残しを片付けました。

ミステリーズ!』vol.02 AUTUMN 2003東京創元社

 泡坂妻夫の犯人当て小説「蚊取湖殺人事件」の解答編のほか、当時は未訳だった思考機械もの「深夜のドライブ」、第13回鮎川哲也賞&第10回創元推理短編賞&第10回創元推理評論賞の選評及び受賞の言葉が収録されています。

 この回の鮎川賞の選考委員は笠井潔島田荘司、受賞したのは森谷明子『異本・源氏 藤式部の書き侍りける物語(『千年の黙 異本源氏物語』として改題出版)』、三沢陽一『玩弄迷宮』が候補作。あらすじからすると、『致死量未満の殺人』の原型でしょうか? 島田荘司は選評では言いたいことを書ききれなかったため、「第十三回鮎川哲也賞候補作を巡る考察」という一文を寄せています。

 創元推理短編賞の選考委員は綾辻行人有栖川有栖加納朋子、受賞したのは加藤実秋「インディゴの夜」、獅子宮敏彦「神国崩壊」。三沢陽一は「無華の家」で短編賞でも候補に。これもあらすじから「華を殺す」の原型だと思われます。

 評論賞の選考委員は権田萬治・巽昌章法月綸太郎、受賞したのは中辻理夫「業と怒りと哀しみと―結城昌治の作品世界―」。常連だった蓮沼尚太郎は結局その後は特に活動していないようです。
 

「神国崩壊」獅子宮敏彦 ★★☆☆☆
 ――暴君に反旗を翻した革隷は、冥王朝の南半を征して後天神国を築き、自らは神王と号した。だがすぐに神王も暴君と化し、夏天公が台頭した。二人を執り成していた秋天公は、危険な戦地へ送られ蛮族の毒矢に倒れた。やがて没した神王に代わり、十五歳になる革瓶が跡を継いで小神王と呼ばれた。そこに乗じて冬天公が夏天公を討ち、冬天公が都で小神王を補佐し、春天公が軍事を統括する体制が続いている。ある日小神王に呼ばれた春天公は、親しかった秋天公の妹が小神王の寵姫・金妃となっているのを見る。金妃は裸に近い姿で鞭打たれ、ほかの二人の寵姫は体を縫い合わされていた。謀叛を恐れて三人の処刑を進言する部下に対し、三人を失いたくない小神王は春天公に相談を持ちかけたのだ。すると側近の魏伊選が、神水による裁きを提案した。神王が存命の時に幾度も見たことがあった。神水をかけられると、逆心ある者は苦しみ抜いてたちどころに死んでいた。だが魏伊選が調べたところでは、神水はただの見ずだという。裁きは幹部たちに公開された。水の満たされた浴槽に金妃が身体を沈めた。何も起こらない。次に銀妃と銅妃が入る。何も起こらないはずだった――。

 第10回創元推理短編賞受賞作。逆算して読めば、銀妃と銅妃が身体を縫い合わされているという猟奇趣味が必然であることもわかるし、鞭打たれている【=毒の入る傷口がある】ことも必要なこともわかります。だから内側に突起が付いていて入る者を傷つける浴槽も、【毒を縁付近の突起に塗っておいて、人が入って水位が上がれば毒が水に溶ける。一人だと縁付近まで水は上がらないが、縫い合わされた二人分の体積だと毒まで水が届く】というトリックを加虐趣味で統一された隠れ蓑に隠すという点で、しっかり作品世界に組み込まれていました。ただ、普通に読むとしょぼい物理トリックでしかないのが疵です。架空の中国風王朝も、【飲んでも触れても無害だが傷口から体内に入ると死に至る】都合のいい毒薬(と猟奇趣味)のためには必要だったことはわかりますが、昨今の異世界ミステリと比べてしまうと必然性に乏しさを感じてしまいます。犯人と動機はおまけみたいなものです【※嗜虐趣味の金妃が小神王の寵愛を一手に受けるため、魏伊選と結託した】。
 

『創元推理18 丑三つ時から夜明けまで』東京創元社,1998)

 表題作「丑三つ時から夜明けまで」の作者・円谷夏樹とは聞かぬ名なので新人かと思ったら、当時は新人には違いありませんが、前年「三人目の幽霊」で創元推理短編賞を大倉崇裕名義で受賞後、この年に円谷夏樹名義の「ツール&ストール」で小説推理新人賞を受賞したためペンネームを円谷夏樹に統一するつもりだったようです。でも結局『創元推理20』では大倉崇裕に戻していました。

 カミ「連続殺人犯脱獄の顚末」は、現在では「《とんがり塔》の謎」として創元推理文庫『ルーフォック・オルメスの冒険』で読むことが出来ます。……と思ったけれど、もう品切れなのか。
 

「メェゾン・ベルビウの猫」椿實(1997,1998)★☆☆☆☆
 ――じいさんは神田山本町で注射の針をつくり、ばあさんは注射筒をつくっていた。じいさんと本郷医療器店主とは従兄弟同士だといっていた。その娘が巨万子である。白野とはまた姉弟になるのだそうで、四つ年上であった。与謝野晶子の弟子で情熱的な歌をよこした。白野はこのまた従姉に惚れてしまったようである。乳がでかいのはばあさんの遺伝らしい。開業医はいそがしいからいやだと言って見合いを断ったと聞いて、四つも年上では可能性はないが、医者になるのはやめとこう、と白野は文科を受けることにした。この時に入っていれば吉行淳之介と同期だから、二年修了で長崎医大に入ったろうと思う。そうすれば原爆で講義中に死んだかもしれない。巨万子は時々尋ねてきて、ものも言わず抱きついて大きな乳房を押しつけるが、肉付の割には固かった。むいて見たら、乳首に黒い毛が生えていた。

 伝説の幻想小説作家、ということになるでしょうか。1997年に刊行された豆本を訂正増補したもので、代表作「メーゾン・ベルビウ地帯」の後日譚とのこと。メェゾン・ベルビウとは美景館(maison bellevue)の謂であるらしい。虚実綯い交ぜとなった私小説風のちょいエロ小説で、澁澤龍彥が評価したという片鱗は窺えるものの、『血と薔薇』を読んだときにも感じた昭和のおっさん臭さは否めません。あらすじはあってないようなものです。
 

「夕べにはパズルめいて」城平京 ★★★☆☆
 ――「ピラミッドパワー信者と電波人間が仲良く暮らしているおうちに泥棒さんが忍び込みました。さて、どうなったでしょう? 答え、殺人が起こりました」七子さんと出会ってからまだ一年にも満たないけれど、アパートに泊まりにくることも仕事の悩みを相談してくれることも多くなった。今抱えている事件に不満があるらしい。被害者は片野嗣夫と、その恋人、宇津木正美。現場は嗣夫の自宅。嗣夫は庭に作られた木製ピラミッドの中でお腹に包丁を刺されての失血死。正美は台所で、まな板で前頭部を何十回も殴られていた。発見者は嗣夫の兄の忠雄と妹の里子。正美とも友人で、様子を見に来たところ応答がない。そのうち警視庁のキャリアでもある忠雄がやって来て、裏に回るとピラミッドまで点々と血が落ちている。ピラミッドの鍵を壊して中に入り、弟の死体を見つけた。現場からは、嗣夫が『ファラオの短剣』と称していたピラミッドパワー増幅器がなくなっていた。エジプトにまつわるレリーフをほどこし、宝石をちりばめたものだが、どうも業者に騙されていた様子もある。現金は盗まれていない。

 前年度鮎川賞候補作『名探偵に薔薇を』刊行後第一作。刑事と友人の世界史教師が掛け合いで推理を進めてゆくところはタイトル通りパズルめいていますが、刑事が事件を担当しているので安楽椅子探偵ものとも違います。可もなく不可もなく、城平京特有の過剰さがありません。とは言えピラミッドパワーと電波人間という設定がきっちり活かされている【※正美に包丁で刺された嗣夫が、エジプト柄の剣で正美に反撃した。発見者の忠雄が自身のキャリアのため嗣夫の殺人を隠そうと、正美の額についたエジプト柄の跡からまな板で殴打する。正美が嗣夫を刺したのは、里子が遺産目当てに隠しマイクで「殺せ」と「電波」を飛ばしていたから】ところはさすがです。

 今回の鮎川賞・短編賞・評論賞はなぜか揃って低調だったらしく、選考委員が口を揃えて嘆いています。そんななか鮎川賞を受賞したのは飛鳥部勝則『殉教カテリナ車輪』、短編賞は受賞作なし、評論賞は佳作二篇が小松史生子アニミズムのエロス 江戸川乱歩論」、蓮沼尚太郎「第二の推理小説ハウダニット Howdunit―について」。
 

『創元推理6』1994・秋号東京創元社

 第五回鮎川哲也賞愛川晶『化身』。近作を調べようとしたところ、別名義が谷原秋桜子だと知って驚きました。

 第一回創元推理短編賞は剣持鷹士「あきらめのよい相談者」。現在は本業の弁護士に専念しているようです。受賞インタビュー(聞き手:北村薫)によると、「日本では法廷物というジャンルは成立しないと思いますね。陪審員もいませんしね。例えば自分で完璧に反対尋問を決めたと思っても、裁判官が居眠りしているなんていうのは、よくあることなんですよ。裁判官は、後で調書を見て判断するわけです。また裁判は二年、三年とかかるわけですから、場合によっては転勤しちゃうこともある」というエピソードが面白い。当時はまだ裁判員制度など影もなかった時代です。

 第一回創元推理評論賞は、濤岡寿子「都市の相貌――中井英夫『虚無への供物』と東京」、佳作が佳多山大地明智小五郎の黄昏――誰が明智小五郎を殺したか?」。
 

明智小五郎の黄昏――誰が明智小五郎を殺したか?」佳多山大地

 現場と肉声の状況証拠によって真相を推理した明智が、新聞を推理の裏づけにする点を、「明智は真実を報道するのがメディアであると思いこんでいるので、メディアが報道したものが真実になるヽヽという逆説には気づかない」と論じるところまでは作品内で完結していると言えるでしょう。それを戦前という時代メディアによる輿論操作と結びつけるまでに広げ、通俗長篇や少年探偵団ものを援用して「日本人全体が〈個〉の観念を喪失し、一つの制度ヽヽヽヽヽに同一化してゆく時代」だったというところまで飛び上がるジャンプ力が素晴らしい。著者のこういう発想のファンです。あの無邪気と思われた「明智先生、ばんざぁい。」「小林団長、ばんざぁい。」にもそういう意味を見出すとは――。
 

創元推理文庫わたしの十冊」北村薫宮部みゆき

 だいたいはいつものラインナップですが、ドン・ウィンズロウ『ストリート・キッズ』や、キース・ピータースン『夏の稲妻』あたりは当時読んで印象に残った作品のようです。
 

『創元推理9』1995・夏号東京創元社

「傀儡のように踊れ――江戸川乱歩『目羅博士』試論」佳多山大地

 おそらくは本誌収録の発掘作品・江戸川乱歩『怪人と少年探偵』に合わせて、「明智小五郎の黄昏」に続いて書かれた乱歩論ですが、前作のような切れ味には乏しいと感じました。

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