『ジャーロ』No.4 2001.SUMMER(光文社)

ジャーロ』No.4 2001.SUMMER(光文社)

 当時麻耶雄嵩の新作「白幽霊」だけ読んで積ん読していたものをようやく読みました。
 

「巻頭インタビュー Hello GIALLO」ヘンリー・スレッサー

 「気に入った売り家」のアイデア元について話してくれていますが、本誌掲載「アウトソーシング」に関してはちょこっとだけでした。
 

アウトソーシング」ヘンリー・スレッサー/池央耿訳(Outsourcing,Henry Slesar,2000)★★☆☆☆
 ――私はハワード・メルツァー。ボウマン・ジョンソンの営業担当役員付である。直属の上司はジョウ・ファニング。ジョウは勤続十九年の古参だが、会社の起死回生を図ろうと役員会がモート・カニンガムを迎えてから、何かにつけて分が悪い。当然ながらカニンガムは各部担当役員から憎まれている。会議室に面々が集まったのも憎悪が理由だった。「それで、どうする?」「調査によると、カニンガムは会長の娘と再婚しそうだ」「問題は、どうやって始末するかだ」「アウトソーシングだよ。専門家に頼るしかない。ジェレミー・ワッツというその道のプロを知っている」そうして私が交渉役を押しつけられた。

 アウトソーシングとは言いつつ、ただ単に殺し屋を雇うだけのことなのですが、インタビューを読むに恐らく息子の仕事がらみでアウトソーシングというシステムを知って小説に採用したのでしょう。有能且つ横暴ゆえに憎まれている人間が、やはり一枚上手だったという話です。
 

「瀕死の客船」エドワード・D・ホック/中井京子(The Adventure of the Dying Ship,Edward D. Hoch,1998)★★★☆☆
 ――晩年に至ってぼくはこれを書く。この出来事をなんからの形で記録に残さねばならないと思うからだ。一九一二年、タイタニック号の処女航海に招かれ、隠退生活に飽きが来ていたぼくは招待に応じた。列車内で相席だったのはジャック・フットレルというアメリカ人だった。「あの『十三号独房の問題』の著者ですか。あれはすばらしい」「恐れ入ります」そしていよいよ乗船すると、赤毛の女性が話しかけてきた。「男につけられているんです、ミスター・ホームズ」「ぼくをご存じなんですか、ミス・コリアー?」。その後、コリアーの夫だと主張する男が、エレベーター内に転落して見つかった。

 ホームズとフットレルがタイタニックに乗り合わせていずれ劣らぬ推理を競っていたという趣向以外は特に見るべきものはありません。作中にインチキ心霊主義者を登場させ、著作権代理人のドイルが心霊主義を信奉していたからこの原稿が未発表に終わったという、未発表の理由が凝っているところに、マニアっぽさを感じます。
 

「水面の星座 水底の宝石(3)」千街晶之

 『シンデレラの罠』は、趣向を伏せずに宣伝文句にしたために一人四役として後世に喧伝されることになったのでは?というのはうなずけます。あの宣伝文句に惹かれて読んで、たいしたものじゃなかったとがっかりするまでが、『シンデレラの罠』という作品でしょう。
 

「世界のミステリーを読む 韓国編」

「帰ってきた死者」金聖鍾《キム・ソンジョン》/金容権訳(돌아온 사자,김성종,2001)★★☆☆☆
 ――ある組織から、金輝一という人物を殺してほしいと頼まれた。私はきっかり一ヵ月かけて、その仕事の準備をした。ホテルに現れた金輝一は、日本人のような恰好をして日本人の名を名乗っていた。タバコの火を貸したのをきっかけに、私たちはすぐに親しくなった。翌朝、私たち二人を乗せた列車はローマを出発した。私は輝一に睡眠薬を飲ませ、肋骨の下をナイフを刺した。そうして列車を降りた私だったが、パスポートがないことに気づいた。輝一にすられたのだろうか。だがすでに死体は見つかり列車から運び出されようとしていた。

 書き下ろし。韓国推理小説の基礎を築いた作家だそうです。犯行現場に残されたパスポートから犯行が暴かれるのではなく、被害者だと思われるという、ユーモアのつもりなのか何なのかよくわからない作品でした。
 

「わな」金且愛《キム・チャエ》/鄭泰原訳(함정,김차애,?)★★☆☆☆
 ――鏡のなかの口許が、激しい感情が噴き出すのを抑えようとするかのように震えた。彼が今から手術しようとする人間を思い浮かべたからだ。カンミンス。有能な神経外科医である彼にとって、患者の名前などは何の意味もなかった。三号室二十四歳。脳腫瘍患者。けれども、カンミンスだけは違った。五年前のあの日以来、忘れたことのない名前だった。「ウンヒ……」彼は娘の名前をつぶやいた。樹氷のように純潔だったウンヒが、カンミンスというハイエナに踏み躙られた。それなのにカンミンスの父親のお金と権力が、裁判の結果を左右した。娘は自分の手首を切って十七歳の命を絶った。そう簡単に楽に殺しはしない。一生を苦痛の中で、死ぬ方がましだと思えるような一生を生かしてやろう。

 作品に関する情報が一切ありません。著者は日本にあこがれ日本滞在中にテレビ文化を研究して推理ドラマに関心を持ち、2001年現在はテレビの仕事が多いそうです。あらすじといえば娘を汚された父親が犯人に復讐するというだけの話なので、見どころは過去から現在までの父親の心理描写ということになるのでしょうが、これがありきたりと言わざるを得ません。
 

「罠に落ちて」ハーラン・コーベン/山本やよい(Entrapped,Harlan Coben,1997)★★★★☆
 ――「夫が行方不明なの」わたしはいった。なのにハーディング部長刑事の反応は薄かった。「二日前から帰ってこないの」「ご主人の写真はお持ちですか」わたしはエドワードの小さな写真をバッグからひっぱりだした。「それじゃ、ミセス・キンブル、何かつかめないかやってみます」もう帰ってくれという意味だ。わたしは玄関の横に車を停めた。ところが鍵穴に鍵をさしこんでみると、ドアの錠はすでにあいていた。変ね。ドアをあけて家に入った。足音がきこえた。「ジェン? 帰ったの? お帰り。どこ行ってたんだい」見知らぬ男が笑顔を見せた。「誰よ、あなた」「ねえ、ジェン。もう仲直りしようよ」

 『幻の女』などでお馴染みの、誰も自分を信じてくれない状況が描かれます。当然ながらどちらかが噓か狂気なわけですが、さすがに90年代の作品ともなるともう一ひねり二ひねりありました。この犯人の開き直りっぷりにはすがすがしさすら覚えました。
 

「ピッグ・マン」レス・ロバーツ/山本光伸訳(The Pig Man,Les Roberts,1994)★☆☆☆☆
 ――わたしがミネソタからロサンゼルスの自宅に帰ると、車のフロントガラスに〈CIA〉と落書きがしてあった。翌日、窓に何かがぶつかる音がして、「CIAの豚め!」と叫ぶ声が聞こえた。それからも似たようなことが起こり、遂に石で窓が割られるに至って、わたしは警察を訪れた。だがこれだけでは何も出来ないと追い返されただけだった。わたしは窓の外に停まっていた車のナンバーを控えていた。知り合いに頼み込んで車の持ち主を探ってもらったが、知らない人間だった。

 私立探偵サクソンもの。CIAと落書きされたり石で窓を割られたりするのは、現実に自分がされたならともかく、ことに善良な一市民とは言えない人物が作中でされていても、警官が言うとおり事件の優先順位は下であり、物語としては平凡でさして魅力は感じません。そのうえ最後になって唐突に、実はあの男は○○でお前は××でと説明的にまくしたてられても、ポカンとせざるを得ません。CIAとベトナム戦争批判をお手軽に盛り込んだ印象です。
 

「カウボーイ・ハットの男」ローレン・D・エスルマン/矢口誠訳(The Man in the White Hat,Loren D. Estleman,1999)★★★★☆
 ――レッド・モンタナ&ディキシー・デイ博物館へ足を踏みいれたヴァレンティノは、巨大な絵に出迎えられた。絵のなかでは若いモンタナがカウボーイ・ハットを振っていた。警備員がヴァレンティノに気づき、大広間へ案内された。現実のレッド・モンタナは映画ほど背が高くなかった。「こいつが先週ファックスされてきた」差し出された用紙には、まだ二十代になるまえのディキシー・デイが全裸で誰ともわからない男の腕に抱かれていた。「本物ですか?」「彼女はデビュー前にポルノ映画に出演したあことがある。数年前、わたしは十万ドル支払い、一切合切を焼却したはずだった」「そのときと同じ脅迫者だと思いますか?」「わからない」「なぜわたしに?」「わたしは映画界の人間しか信用しない。引き受けてくれないなら、わたしが持っている貴重なフィルムを燃やしてしまうつもりだ」

 映画探偵ヴァレンティノもの。映画探偵とはいうものの、徹頭徹尾芯の通ったハードボイルドです。脅迫者探しから始まり、たどってゆけば身内に至るといったスタイルはもちろん、ゲスい悪役や犯人の矜恃など、作中の映画のような古き良きクラシックな魅力に満ちていました。

 ジャーロ GIALLO No.4 2001 SUMMERジャーロ』No.4


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