『《ドラキュラ紀元》 われはドラキュラ――ジョニー・アルカード(下)』キム・ニューマン/鍛治靖子(アトリエサード)★★★☆☆

『《ドラキュラ紀元》 われはドラキュラ――ジョニー・アルカード(下)』キム・ニューマン/鍛治靖子(アトリエサード

 『Anno Dracula: Johnny Alucard』Kim Newman,2013年。

 後半に入ってだんだんと盛り上がってはきましたが、長篇三部作と比べると、やはり小粒な印象は拭えませんでした。
 

「第四部 この町ではもう二度と血を吸わない――ドラキュラ紀元一九九〇」(Part Four: "You'll Never Drink Blood in this Town Again" (Anno Dracula 1990))★★☆☆☆
 ――ホリーとキットは湿っぽい地下室に落とされた。老人が開拓時代のリヴォルヴァに銀の弾丸を装塡した。その瞬間、キットを乗せたホリーが蜥蜴のようになって壁を這いあがった。ふたりは老人にのしかかり、あふれる血の泉に口づけする。「ブラッディ・ホリー」キットが言った。「ラムチョップ」ホリーも答えた。……アルカードがビデオ・アーカイヴにビデオを返却しに行くと、店内が見えた。いまままさに強盗事件が発生しているではないか。アルカードはドアを押し開けた。「何者だ」「ビデオをもった男さ」「おれはキット・カラザーズ。殺人犯だ」

 映画『地獄の逃避行』の主役二人が映画そのままに行き当たりばったりに罪を重ね、最後にはアルカードとやり合って殺されたり仲間にされたりしています。映画やドラマのタイトルがずらずらと羅列されるうえに、両陣営とも魅力がないため読むのがしんどい。最後に申し訳程度に政治が語られます。
 

「インタールード ミス・ボルティモア・クラブズ――ドラキュラ紀元一九九〇」(Interlude: Miss Baltimore Crabs (Anno Dracula 1990))★★★☆☆
 ――殺人課の刑事がふたり、死体を見おろして立っている。殺人か? イエス。だがそれは彼女の管轄ではない。ジュヌヴィエーヴは非合法物質の売買における意見の相違による殺人だと判断した。刑事が顔をあげた。「ジュネ・ディー、何か言うべきことはないかい」。ジュヌヴィエーヴは検死局の特別要請によって、トロントからボルティモアに移ってきた。ボルティモアは奇怪な事件が多いのだ。ドラック狂騒はなおもひろがりつつある。死体は全部で七体あった。「なぜわたしが呼ばれたの?」。刑事はキッチンの死体を見せた。ひっくり返った箱から、ヴァンパイアの歯が散らばっていた。

 第三部でコロンボによって探偵許可証を失効させられてしまったジュヌヴィエーヴが、検死局(OCME)に雇用されています。ドラック(ヴァンパイアの血を用いたドラッグ)のためにヴァンパイアを食い物にしている組織と対峙し、窮地に陥ったジュヌヴィエーヴを救ったのは――それがスパイしていたアルカードの部下なのは、カウボーイによる救出劇をやりたかっただけにも思えます。
 

「第五部 コンサート・フォー・トランシルヴァニア――ドラキュラ紀元一九九〇」(Part Five: A Concert for Transylvania (Anno Dracula 1990),2011/2013)★★★☆☆
 ――フェラルの血によって、ホリーは変わった。ホリーがあの英国系ルーマニア人に変身したとき、ペニーはびっくりしていた。そのときまで、ホリーが変身できるのは人獣だけだったのだ。変身は完璧だった。ジョンは喜んでくれた。マンダレイ城に着くと、ペニーがバンシーやヨルガ伯爵をホリーに紹介した。「そしてこちらは、ええと、ミセス・マインスター」「マインスター男爵夫人よ」敵意をむきだしにしてパトリシア・ライスが訂正する。オクロック伯爵を紹介されたときには、恐怖がホリーの心臓をつかんだ。トランシルヴァニア人と合意に達した今回の計画は、元蝙蝠戦士バンシーをホリーに与えるというものだった。そうすればホリーも飛べるようになるだろう。ホリーはバンシーを凝視したあと、すばやくむきを変え、男爵夫人に襲いかかった。これでマインスター男爵への接近が容易になる。

 アメリカVSルーマニア。もともと高い変身能力を有していたホリーでしたが、その変身能力(というか取り込んだ本人を出現させる能力?)が便利すぎます。そしてその能力はアルカードにも花開いていました。これまでのアルカードは、ルサンチマンやコンプレックスが強すぎるうんざりするキャラでしたが、やはりドラキュラは貫禄がありました。これも初出はウェブ。
 

「インタールード ドクター・プレトリアスとミスタ・ハイド――ドラキュラ紀元一九九一」(Interlude: Dr Pretorius and Mr Hyde (Anno Dracula 1991))★★★☆☆
 ――百年をかけて鋭くなった本能が、尾行者がいるぞと告げている。だが尾行者をおびきだすような技はもっていない。いまはとにかく訪問の約束を果たさなくては。ケイトはインターホンを鳴らした。プレトリアスはかつてジキルの研究室だった別棟を借りている。「かくも名高きレディ・へぼ記者殿の興味をかきたてるのは、どのような物語であろう」「ドラキュラよ」「その名前か。死してふたたび歩きし者」「それじゃ、あなたもテレビであのコンサートのフィナーレを見たのね?」「『われはドラキュラなり』もちろん、言うだけなら簡単だがね」「わたしはドラキュラの死を見たわ。一九五九年に」

 自らがドラキュラだと宣言したアルカードに対し、かつてドラキュラの検死をしたドクターに会いに行きドラキュラの生死を確かめるケイト。ここに来てようやくぐぐっと面白くなりかけたのですが、本当にただのインタールードという感じで、第六部への繫ぎでしかありませんでした。
 

「第六部 チャールズの天使たち――ドラキュラ紀元一九九一」(Part Six: Charles's Angels (Anno Dracula 1991))★★★☆☆
 ――ジュヌヴィエーヴは予約してあるホテルのユニットにはいった。枕の上に封筒が乗っていた。ケイトの字ではない。封を切ると、カードがはいっていた。『ザ・ロック 試写会ご招待 ドラキュラ伯爵ご臨席』。〝彼〟だ。だが〝彼〟が何者なのかはまだわからない。ドラキュラを自称することなら誰にでもできる。「それならわたしももってるわよ」聞きおぼえのある声がして、ふり返るとケイトが立っていた。眼鏡の下で眼帯が右目をおおっている。赤い爪痕が髪の生え際からあごまでえぐっている。「〝彼〟なの?」「ドラキュラじゃないわ。あいつがつくりだしたやつ。ホリーっていう、変身能力をもったハンターよ」。そこにいるのはケイトの半分にすぎなかった。ケイトの鋭い爪がジュヌヴィエーヴの咽喉をかすめる。ジュヌヴィエーヴの目に火花が散る。理解したのだ。「あたしの友達に何をしたの?」

 チャールズとはチャールズ・ボウルガードのことでした。一応のところは中ボス戦という感じなのですが、ホリーはともかくゴースは格落ち感があります。本当のラスボス戦に至っては戦うのはモブ……。どうやらアルカード改めドラキュラは今後も大ボスとして立ちはだかるようですが、短篇では物足りなかったので次は長篇が読みたいです。そしてチャールズでもねずみでもよいので、そういった相棒となるキャラクターも活躍させてほしいところです。
 

「補遺1 ドレラを滅ぼす」キャスリーン・コンクリン著(Appendix One: Destroying Drella)
 

「補遺2 ウェルズの失われたドラキュラ」ジョナサン・ゲイツ(Appendix Two: Wells's Lost Draculas)

 いずれも作中の人物が書いた論文という体裁で、これを読んだからといって本篇がより面白くなるということはありませんでした。

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