『無伴奏』太田忠司(創元推理文庫)★★★☆☆

無伴奏太田忠司創元推理文庫

 『Unaccompanied』2011年。

 阿南省吾は姉・仁恵から父・太市危篤との報せを受けて実家に戻ったが、実際には認知症の父親の介護をさせようという兄・拓馬が企んだものだった。ヘルパーに頼むのは体裁が悪いという兄に対し、現在は自身も介護士として働く阿南は、介護サービスの必要性を訴える。阿南に会った父は、うわごとのように「鶴子は……かわいそうな女だ。あれはしかたなかった……あの日、ごまいばしで……わしが殺してしまった」と呟いた。まさか、父が母を? 叔母にたずねると、母は阿南が二歳のとき肺炎で死んでいる。同じ時期に阿南が大けがをしたともいう。阿南は五枚橋に行き、倒れている石仏を見つけた。石仏を起こすと、その背に「つるこのために たいち」と彫られていた。その石仏は父が供養のために置いたもので、十年くらい前に仕事を手伝わせていた吉村という男が車に轢かれて死んだときのものだという。吉村とは何者なのか――。そんなとき、阿南は高校時代に付き合っていた梢と再会する。同じく同級生だった夫の三隅敏通が行方不明だと聞き、阿南は知り合いを通して探偵を紹介する。

 阿南シリーズ第四作。

 阿南自身の事件というドラマチックな話のはずなのですが、阿南というのは生真面目で無味乾燥な人なので、せっかくのドラマも他人事みたいな空気です。【入院中の母が妹と夫の不倫を疑い無理心中しようとして阿南を刺したとか、吉村は母が結婚前に産んだ子どもだったとか、母にぞっこんだった父はそんなもろもろを受け入れたとか、母の死後に引き取った吉村という屑人間が父の目の前で車に轢かれたとか、】やたらと濃い阿南家の事情が設定倒れになってしまっています。今さらどうすることもできませんが、阿南という人物造形自体が失敗だったのではないでしょうか。

 父親の発言は、クリスティあたりが書きそうな【前半は母親のこと。後半は吉村のこと。という】誤誘導なのですが、前記したような他人事感もあって、巧いというより拍子抜けでした。

 梢の事件の方も、【夫の浮気に気づいた梢が心中に見せかけて浮気相手ともども(発作的に成り行きで)殺すという】事情を鑑みれば、家族の在り方みたいなところで阿南家の事件と通底させようとしているのでしょうが、阿南家の方が軽いので一緒に軽くなってしまっていました。

 阿南が天然ちゃんみたいだった『天国の破片』と比べれば、無味乾燥な分まだマシと言えますが、リュウ・アーチャーの透明さというのをヘンテコな感じで移植しているようにも思えます。

 父親との反目から実家とほぼ絶縁状態だった元警官の介護士・阿南は、父危篤の報を受けて、二十二年ぶりに帰郷した。彼は、すっかり老いて認知症を患う父の姿に強い衝撃を受ける。あまりにも様変わりした父の口から漏れた信じがたい言葉──「わしが、殺した」とは、何を意味するのか。秘められた過去の謎を軸に、人びとの抱える孤独と家族の絆を鮮やかに描き出した傑作ミステリ。(カバーあらすじ)

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