『マクベス夫人症の男』レックス・スタウト/山本博訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★☆☆☆

マクベス夫人症の男』レックス・スタウト山本博訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 『Please Pass the Guilt』Rex Stout,1973年。

 ネロ・ウルフものは謎解きミステリではなくて、言ってみれば刑事ものの連続ドラマのようなものだと思うのですが、アーチーとウルフの掛け合いや、フリッツやソールやクレイマー警部らとのやり取りや、あのウルフがまさかそんなことを!といったネタ(p.57驚きを顔に出さないウルフが目をみはった)や、関係者一同を集めての訊問など、毎度毎度のワンパターンが本書でも繰り広げられていました。

 冒頭の謎は魅力的です。知り合いの医師から相談されたのは、自分の手が血で汚れていると訴える男の話でした。邦題にある通り、マクベス夫人症候群というわけです。普通に考えれば、その男ミーアが犯した罪の意識に苛まれていると推測するのが自然です。果たして男は航空会社副社長爆殺事件の関係者の一人だったことが判明します。

 殺されたのは副社長オーデル。なぜかもう一人の副社長ブラウニングの部屋にあるデスクの引き出しを開けて、引き出しに仕掛けられた爆弾に吹き飛ばされます。オーデルはなぜ他人の部屋の引き出しを開けたのか――、犯人は初めからオーデルを狙っていたのかそれとも狙いはブラウニングだったのか――。

 ここまでは魅力的でした。

 けれどここから先はいつも通りゆえの退屈さ。冒頭の男などそっちのけでウルフとアーチーがマイペースで事件を追いかけます。しかも女優とアーチーのセックス談義やら、ウルフの事務所に顔を出しただけのテロリストやら、わざわざ退屈な場面をつけ加えている始末です。

 【次期社長の座を巡ってオーデルがライバルを陥れるため酒壜にLSDを混ぜようと引き出しを開けたところ、仕掛けられていた爆弾の犠牲になった。爆弾を仕掛けたのはブラウニングの秘書に横恋慕していたミーアであり、嫉妬からブラウニングを殺そうとした。】という事件の構図は、ありがちとはいえよく出来ています。そそのかしたのがオーデル夫人であるのも、マクベス夫人を意識したものであろうと思われます。

 ただ、マクベス夫人症の男が開巻早々ほったらかしにされてしまっただけに、【結局は真犯人がミーアだった】と明かされても、意外性というよりは都合がいいなとしか感じられませんでした。異なる思惑を持つ別々の犯人が存在したことで事件がややこしくなるという構図にしても、殺人犯の動機がなんじゃそりゃという感じなので、構図がうまく活かされているとは言いがたいのも事実です。

 訳者あとがきによれば、原題は「Please pass the salt(塩を取ってください)」のもじりだそうです。ネロ・ウルフもの最後から二番目の長篇。

 ウルフの友人の医者が持ってきた話はなんとも奇妙なものだった。精神科医が見放した患者の話を聞いてやってくれというのだが、その患者の症状とは、両手が血まみれになり、他人にはそれが見えないということらしい。やがてやって来た男は、かなり重症のようだが、そのわけを打ち明けようとはしなかった。ただ、最近ある航空会社の副社長が爆弾で殺される事件があり、この男はそこの社員であることがわかった。事件の背後には、一体何が隠されていたのか? 美食と蘭を愛するウルフと機敏なアーチーの活躍を描くシリーズ第5弾! 本邦初訳。(カバーあらすじ)

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