『リフレイン』沢村凜(角川文庫)★★☆☆☆

『リフレイン』沢村凜(角川文庫)★★☆☆☆

 1992年刊行。

 カバーイラストを見て学園小説かと思いましたが、『瞳の中の大河』や『黄金の王 白銀の王』同様のファンタジーでした。

 アンタミア標準暦四七五九年二月五日、三日前に母星キサノアを出発した星間宇宙船イフゲニア号は、銀河共同連盟の置かれている人工衛星サスに向かって順調に進んでいた。十五年前、アンタミア星域の百六すべての国によって『恒久平和宣言』が採択され、今日は五十年後の完全統合への第一歩たる通貨統合の日であった。だが〈ジャンプ〉航法の最中にトラブルが起こり、イフゲニア号は辺境の無人惑星に不時着する。惑星は仮にメシアと名づけられた。

 生き延びた人々は弁護士ラビルを執政官とする共同体イフゲニア国を組織し、サバイバル生活を始めるが、やがて婦女暴行事件をきっかけにしてイフゲニア国に離反するグループが現れた。その後もトラブルは続き、ラビルは異様なほどの節度と公平心を以て事態の収束を計るが人々の怒りは収まらず、裁判によって離反組の一人に死刑判決が下される。最後まで死刑に反対していたラビルだったが、もはや死刑は避けられないと悟ると自らの手で絞首刑の縄を引いた。

 そうして一年四か月後、イフゲニア号の乗客たちは救助される。新聞記者フレオンや一等航海士リュタらはラビルの思いを継ぎ、惑星メシアでの出来事については口をつぐんでいた。だがラビルの母星メリエラはたとえ侵略されようとも長年にわたり徹底的な非暴力主義を貫いて来た星であり、殺人はいかなる事情があろうとも許されるものではなかった。メリエラ警察の殺人課長カウエーは惑星メシアで起こったことを疑い、執拗に生存者たちに接触して真相を探ろうとする……。

 前半はサバイバル小説、後半は法廷が舞台ではありますが法廷小説とも呼べず、さりとて死刑を巡る思弁小説とも言えず、ただただ「殺人はよくない」を繰り返すメリエラ人およびラビルと、他国人とのディスコミュニケーションが描かれていました。

 はじめのうちこそこの非暴力国家は日本がモデルかとも思いましたが、実際のところメリエラの感覚は非暴力というよりは殺人に対するアンチと言う方が近いのではないでしょうか。イフゲニア国の裁判で死刑を求める人々に対し、被害者がされたのは死ぬほどのことではなかったと反論するラビルに、まず違和感を覚えたものでした。どう考えても被害者感情を無視しているとしか思えません。

 しかしどうやらこれがメリエラ人の特性に起因するようです。どのような形であれ人を死に追いやることを忌避するということらしい。だから無人島で孤立してしまうことは死に直結することだと考えて、離反組に食料などを与えます。強姦や傷害は死に直結するわけではないので、犯人を大目に見ます。なるほど異世界SFにする必要のある極端さです。

 メリエラでの裁判が始まると、この歪みが顕著になります。メリエラ人は殺人を許さないだけで決して非暴力的ではありません。むしろイフゲニアで処刑をおこなったラビルを憎悪し攻撃することに嬉々としています。ラビルはラビルで自罰的だからややこしいことになります。メリエラ人による攻撃的な殺人否定とラビルによる自罰的な殺人否定が噛み合ってしまうのも、どちらも殺人はよくないことだからよくないと唱えているだけなので当然ではあるのでしょう。

 もともと弁護側があまり説得力のある弁護を出来ていないうえに、こんな思考停止な人たちに何を説いても無駄なわけで、最終的に事態を打破できたのは愛と強引な手段だけでした、というのではあんまりです【※メリエラから国籍離脱すればメリエラの法は適用されないというフレオンらの説得も拒み、ラビルは終身刑になる。だがラビルを愛するアムネスが裏で手を回してラビル専属の刑務官になり、来たるアンタミア統一時の法律の原案作りという労務を与える】。

 一隻の船が無人の惑星に漂着したことからドラマは始まった。属す星も、国家も、人種も異なる人々をまとめあげたリーダーに、救援後、母星が断じた「罪」とは⁉ 争いは人間の本能なのか? 厳格な法なくして人は拳をおさめられないのか? 信念を貫き通す男と、彼を愛するがゆえ、それを阻もうとする仲間たち。二つの〈正義〉がせめぎあう。『黄金の王 白銀の王』で話題の著者の原点にして、圧巻の人間ドラマ‼(カバーあらすじ)

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