『三つ目がとおる 《オリジナル版》大全集 1』手塚治虫(復刊ドットコム)

三つ目がとおる 《オリジナル版》大全集 1』手塚治虫復刊ドットコム

 手塚治虫は改稿魔として知られ、版を改めるたびに改稿するためさまざまなバージョンが存在し、なかにはちゃんと改稿しきれず作品に矛盾が生じてしまうという改悪もしばしばでした。だからこの雑誌オリジナルの大全集は非常に嬉しい企画です。わたしが持っているのはコンビニコミック(プラチナコミック)版なので、それとの比較になります。
 

「第一話 三つ目がとおる(1974.7.7)――コミックス版では「三つ目登場」のタイトルが付けられている第一話。バンソウコウの時はバカで弱虫で、はがして三つ目になると悪魔のような性格と頭脳があわらになることや、和登サンが写楽を気になる存在として意識しているというシリーズ共通の設定はすでに固まっています。写楽がいじめっ子に復讐する話です。やっていることは残酷なのですが、「脳みそをトコロテンにする機械」という妙ちきりんなオブラートに包まれているがために、おかしなユーモアと忘れがたいインパクトを残します。

 コミックス版とはほとんど差異はありませんが、p.15の広告告知のヒョウタンツギと広告はコミックス版では新たなコマに差し替えられ、p.32の犬持博士と校長先生たちの台詞が変更されています。扉がカラーで写楽が虹色の光を背景に浮かんでいるイラストです。コミックス版の扉は連載第8回の扉が採用されています。
 

「第二話 赤い案内書(ガイドブック)」(1974.8.11)――コミックス版ではタイトルが「第三の目の怪」に改められています。今回はラーメン屋「来来軒」の店員にいじめられていますが、写楽の目的は個人的な復讐よりもっと大きなものでした。来来軒のヒゲオヤジ、「アブトル・ダムラル・オムニス……」の呪文、写楽の武器となる槍が初登場しています。大きな異同は見つけられませんでした。
 

「第三話 魔法産院」(1974.9.15)――コンピュータ化された産院で発生したコンピュータの叛乱。コンピュータの叛乱は『ブラック・ジャック』でも扱われていました。コンピュータが犯人なのに「魔法」というタイトルがニクい。はじめはミュータントの赤ちゃんに偽装されていたので、真相を隠すミスリーディングの役割も担っていました。第一話と第二話でキャラと設定の大まかな説明は終わったと判断したのか、ぐっとストーリーに力が入っています。ミュータントの赤ん坊といい、ゲゲゲの鬼太郎のような写楽といい、フランケンシュタインのような院長といい、真相の隠され方といい、怪奇とSFとミステリーにあふれた好篇です。

 扉に当たるお馬さんごっこみたいな写楽と和登サンのイラストは雑誌版にはありません。タイトルバックの扉ページ(pp.66-67)が見開きであるほか、冒頭が2色カラーであるためか婦長の死体に赤い血が描かれている(p.72)といった違いがありました。
 

「第四話 酒船石(さかふねいし)奇談」(1974.10.13)――写楽は中学二年生なので、修学旅行で奈良に来ています。酒船石は古代人の毒薬調合器であり、二面石はその説明書だったというように、考古学的な要素を中心に描かれた最初のエピソードです。

 朝食とその後のページ(pp.116-117)がかなり描き直されています。この場面に関しては、描き直されたバージョンの方がよいと思います。というかこれ、オリジナル版の方は恐らくアシスタントが描いています。和登サンからスリッパをぶつけられているいじめっ子(p.117、5コマ目)は、少なくともこの頃の手塚タッチとは明確に違って見えます。そのいじめっ子が肩で風を切っているチンピラ風な恰好(2コマ目)から、頭を寄せ合うマンガチックな表現に変わり、スリッパをぶつけられるシーンもよりギャグっぽく身体がぴょーんと伸びる表現に変わっています。
 

「第五話 寿命院邸の地下牢」(1974.11.10)――鹿児島の旧家から三つ目の人物が書かれた絵巻物が見つかったことから、写楽と和登サンとヒゲオヤジが屋敷を訪れるというストーリーで、三つ目族のルーツを探るという以後も繰り返されるテーマが扱われています。ただしこの話ではほとんど何もわからないまま秘密は燃えてしまいました。わかったのはせいぜい三つ目族は江戸時代にロボットのようなからくりを作る技術を持っていたということくらいです。

 コミックス版との違いはほぼ無し。台詞が漢字かひらがなかだったり、「チャーハン四個」が「チャーハン四つ」だったりする程度ですが、これは手塚の意向かどうかもわかりません。雑誌版では前半が二色カラーだったため、暗がりに色をつけてランプの明かりを白抜きにするという光の表現が見られました(p.142)。
 

「第六話 三角錐《ピラミッド》コネクション」(1974.12.8)――写楽が学校で問題ばかり起こすため、校長は写楽の絆創膏を取ってみてはと提案するが、犬持博士から危険だから絶対に剥がすなと釘を刺されます。一方の和登サンは、Q高校の古代史研究部を名乗る三人組から、ピラミッドの秘密を解き明かすためと言われて写楽を連れ出し絆創膏を剥がしてしまいます。

 変なライターは校長先生の趣味でしょうか。犬持博士が和登サンからの電話を受けているコマ、博士の足許に煙が立っている理由がわからないのですが、煙ではなくそわそわと動き回っている表現なのかもしれません。

 写楽以外の三つ目族登場かと思いきや、ただのメイクでした。

 コミックス版との違いは結構あります。

 コミックス版の扉は頭に蝶々がとまったしょぼんとした写楽ですが、雑誌版では井戸の底?トンネル内部?の写楽でした(p.159)。

 雑誌版では手書き文字だった台詞(p.171他)は、コミックス版ではすべて活字に変えられていました。

 Q高校生が和登サンにピラミッドの説明をするコマ(p.172)では、ピラミッドが見やすいように背景から和登サンたちが消えたり空白が加えられたりしています。次のページで「四つも写っていた」が「四個も写っていた」に変更されているのは、「寿命院邸の地下牢」でも同様の変更があるところを見ると、差別用語扱いされたのかなあ。

 絆創膏を剥がした和登サンが写楽に説明しようとする場面(p.177)の台詞が、「三つ目クン これ見るだけ……」から、「ごめんね 写楽クン これを見て ほしくって ここへつれて きたんだ」に変えられています。この話の和登サンはちょっと自分勝手なので、「ごめんね」と謝って説明する形でフォローしたのでしょうか。

 雑誌版は最終ページに次回の週刊連載開始のお知らせがあるため(p.189)、コミックス版ではその分のコマが描き足されています。
 

「第七回」「第八回」「第九回」(1975.1.19~2.16)――週刊連載開始。写楽は絆創膏を貼られて能力が制限されてしまうことの対策として、金持ちで機械作りが趣味の知り合い・文福に知能退化マシンを作らせます。その一方、絆創膏状態の写楽は落第の危機を回避するため、絆創膏なしの状態でテストを受けることに……。

 この7~9回はプラチナコミックスでは「文福登場」のタイトルで全一話として収録されています。初期のコミックスには未収録。だから雑誌版とプラチナコミックス版に違いはないと思っていたのですが、ことはそう単純ではありませんでした。

 いくつかのエピソードが旧コミックス版「三つ目族の謎」「グリーブの謎」に組み込まれていたため、プラチナコミックス版では重なる部分を削ったり、逆に「グリーブの謎」冒頭をカットしたりといった処理がなされています。

 第7回の見開きカラー扉と第8回のがらくたの前で腕を組む写楽の扉はコミックス版からはカット(第8回の扉はコミックス版第1話の扉として使用されています)。第9回の頭に知能退化マシンを載せた写楽の扉が「文福登場」の扉として採用されています。

 冒頭3ページ(pp.192-194)は雑誌版はカラー。pp.192-200、206-209、216-219のテストの場面が旧コミックス版では『グリーブの謎』編の冒頭に「第一章 先生も狂った!」として移植されたうえで、写楽が和登サンの制服の袖にハートマークを焼きつけたり、白紙のテスト用紙に焼きつけた字が浮きだしたりするシーンが3ページ分ほど追加されています(旧版は現在『漫画全集』版の電子化?第8巻で読むことが出来ます)。コンビニコミック版ではこの旧コミックス版から追加ページを抜いた部分が、「文福登場」冒頭として収録されています。

 pp.201-205(とp.200とp.206の一部)、写楽の母親が犬持博士に写楽を預けるシーンは、コミックス版では『三つ目族の謎』編の冒頭にプロローグとして組み込まれているため、「文福登場」ではカットされています。

 さらに「第十回」pp.261-266のバスケットのシーンも、旧コミックス版では『グリーブの謎』のテストシーンの前後に組み込まれていたため、それに倣う形でコンビニコミックス版「文福登場」にもバスケシーンが存在しています。それに伴い新旧コミックス版では『三つ目族の謎』編の第一章からバスケシーンがなくなっています。

 こういった切り貼りがあるため、コマや台詞も細かいところで異同があります。
 

「第十回」「第十一回」(1975.2.23~3.2)――犬持医師の家に届けられた小包からは、表面に文字らしいもののある球体が出てきた。球体には三つ目族の先祖の残した財宝の在処が書かれており、写楽のおじゴブリン男爵が写楽に読ませようと送ったのだった……。

 犬持博士が医者なのは第2回で明らかにされていましたが、須武田博士はどうやら考古学の博士のようです。

 ここからはコミックスでは『三つ目族の謎』と題された長篇作品になり、第10回・第11回はコンビニコミックス「第一章 重すぎる小包」に当たります。

 コンビニコミックス版の扉絵は第11回扉の写楽がおでこを押さえながら町を歩いているイラストです。これは第10回のバスケのシーンが、コミックス化に当たって雑誌版第10回→旧コミックス『グリーブの謎』→コンビニコミックス「文福登場」と移動されたため、写楽がバスケットゴールにすっぽりはまっている第10回の扉絵は適さないからでしょう。

 犬持博士が球体に襲われて気絶した場面(pp.257-261)がコミックスではばっさりカットされています。

 誘拐された写楽が車の中で尿意を催したシーン(p.275)、雑誌版ではおしっこをもらしてしまいましたが、コンビニコミックス版ではもらした場面はカットされて代わりに運転手が写楽に誘拐についてたずねるシーンが足されていました。それに伴い次のページの台詞が「またトイレいきたくなってきたけど」から「トイレへいきたいよー」に変わっています。

 ゴブリン男爵との対面シーン自体は変わりありませんが、男爵が母親のことを話すシーンはコミックス版の方が効果的です。母親が写楽を犬持博士に預けるシーンを第9回(「文福登場」)から『三つ目族の謎』冒頭に移動させたことが活きていました。

 その他、台詞の違いなどは幾つもありました。
 

「第十二回」「第十三回」「第十四回」「第十五回」「第十六回」(1975.3.9~4.6)――和登サンの父親から協力を断られたため、犬持博士たちは和登サンの協力なしで写楽の絆創膏を剥がしてしまう。球体の文字を読み取った写楽は呪文を唱えて博士たちを気絶させ、和登サンを誘いに来る。

 コンビニコミックス版では『三つ目族の謎』「第二章 天人鳥」に当たります。コミックス版では、雑誌版第14回の扉が採用されています。採用されなかった扉絵は、遺跡に座ってふんぞり返る写楽(第12回)、写楽の顔がずらずらっと並んでいる絵(第13回)、時限爆弾を持って運転手から逃げている写楽(第15回)、お風呂で身体にお湯を掛ける写楽(第16回)です。

 和登サンの父親が写楽とは会うなと和登サンに釘を刺している場面(pp.300-302)は、3コマを除いてコミックス版ではカットされています。和登サンがはっきりと写楽を「悪魔だからこそ魅力があるんだ」「悪魔といっしょになって 世の中をメチャクチャにあばれまわって」と思うシーンはこの時点の和登サンの感情を知る重要な場面だと思うものの、その反面しばらくあとに写楽にキスされて「悪魔‼」と罵るシーン(p.330)が間抜けに見えてしまうと思えなくもありません。

 絆創膏を剥がされた写楽が呪文を唱えて博士たちを天人鳥に襲わせるシーン(p.310)は、犬持博士が最初に襲われたシーンがコミックス版ではカットされているため、辻褄の合うように台詞が大幅に変えられていました。

 和登サンの父親が木から吊るされている大コマ(p.321)はまるまるカット。

 和登サンが来来軒のヒゲオヤジに電話で助けを求めている場面(p.331)では、雑誌版にはあったヒゲオヤジが電話で受け答えするシーンがコミックス版では無くなって、和登サンが写楽を探すシーンに変えられています。こぼれそうになっているラーメンを気にしている客の絵柄に見覚えがあるので、アシスタントか漫画家が描いているのか、手塚自身によるパロディかのどちらかだと思います。描き替えられた事情もその辺りでしょうか。

 三つ目がとおる オリジナル版 1 331ページ オリジナル版(1) 331ページ 

 写楽の能力に関する「重要会議」(pp.345-360)は、コンビニコミックス版では『グリーブの秘密』冒頭に移動。それに伴い天人鳥や文福の機械の出て来るシーン(p.347)はカット。pp.348-351から6コマ選んで1ページ分に再構成して台詞も調整されていました。

 写楽の第三の目を手術で取り除くかどうかの会議中、ゴブリン男爵が大学に乗り込んで博士たちを爆破しようとする場面(pp.361-379)はまるまるカットされています。写楽のドタバタや、和登サンの必死の訴えや、写楽を助けようとするヒゲオヤジの空回りや、爆発に巻き込まれたゴブリン男爵のギャグ調の絵など、面白いシーンもあるのでもったいない。

 三つ目がとおる オリジナル版 1 376ページ オリジナル版(1) 376ページ 

 pp.380-381では台詞が何か所か変更されています。ゴブリン男爵の爆破シーンがカットされたためゴブリン男爵に絡んだ台詞が球体の秘密の台詞に変わり、写楽と和登さんのコンビに関する時事ネタ(キンちゃんとジロサン。あのねのね)が無くなっています。

 pp.381-386はコミックスからはまるごとカットされていますが、『三つ目がとおる』という作品を通して非常に重要なシーンです。写楽が和登サンに母性を求めたり、その結果としてお風呂に入ったりと、単純な友情とも恋愛感情とも違う、これからも繰り返されることになる二人の関係を象徴するシーンだと思います。特にお風呂のシーンは最終話にも通ずる大事なシーンなのですが、その最終話にしてからがコミックス版ではお風呂シーンを大幅にカットしてあっさりと終わらせているので、バランスという点ではそれが手塚が求めた形ではあったのでしょう。

 三つ目がとおる オリジナル版 1 386ページ オリジナル版(1) 386ページ 

 p.391はまるごとカット。ゴブリン男爵と運転手マクベス写楽たちを見つけて追おうとするシーンです。p.321の和登サンの父親のシーンも、このシーンと同じく横に広告の入っていたページでした。どちらも再構成せずまるまるカットという判断をされたのでしょう。

 [amazon で見る]
 三つ目がとおる オリジナル版 1 


防犯カメラ