『ペルディード・ストリート・ステーション』チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳(早川書房〈プラチナ・ファンタジイ〉)★★☆☆☆

『ペルディード・ストリート・ステーション』チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳(早川書房〈プラチナ・ファンタジイ〉)

 『Perdido Street Station』China Miéville,2000年。

 チャイナ・ミエヴィル初期の「スチームパンク的」作品です。三部作の第一作ですが、邦訳はこの第一作のみのようです。単行本で二段組み650ページという大作でした。

 スチームパンク「的」とはよく言ったもので、厳密な意味でのスチームパンクではありません。科学は発展していても社会が洗練されているわけではない、いわば『ブレードランナー』を彷彿とさせるゴミゴミしたゴッタ煮のスラムのような都会が舞台です。そこに暮らすのが、虫人や蛙人や鳥人のようなさまざまな種族であり、リメイクという人体改造が芸術や刑罰として存在している世界です。

 こうしたことが何の説明もなくただ事実が羅列されてゆくので、しばらくは情報の洪水に圧倒されます。

 読んでいくうち、このさまざまな種族のゴッタ煮世界って何かに似ているな――と考えて、ひらめいたのが『スター・ウォーズ』でした。そう思えば何のことはないレトロなSFファンタジーです。主人公の一人であるリンからして、「のどのふくらみのあたりで、青白い昆虫の下腹部が人間の首へと切れ目なく続いている」という表現がはじめはよくわからなかったのですが、要するに人間の身体に「昆虫の頭」が乗っているのではなく、人間の身体に「昆虫の頭から腹部まで」が乗っているということのようです。それだと胴体が二つあることになりやしないかと思うのですが、厳密さよりもイメージ優先なのでしょう。

 科学者のアイザックは、甲虫型人間〈ケプリ〉のリンと付き合っています。リンはケプリの出す唾液を使った芸術家ですが、作品に目を留めた暗黒街の顔役モトリーから新作を依頼されます。一方のアイザックも、「選択権強奪」罪により翼をもがれた鳥人〈ガルーダ〉ヤガレクから、また飛べるようにして欲しいと頼まれていました。

 そこから変な虫とかドラッグとかが出てきたり、種族が違うからそもそもコミュニケーションが難しかったりと、メインの目的はたどりつつも、ひたすらこの世界の詳細を描くことに力点が置かれている感じは続きます。問題なのはそうして描かれた世界がまったく魅力的ではないことでした。

 おしなべて悪趣味で、特に後半はそんな悪趣味全開のアクションでした。

 ヤガレクが罪を犯して翼をもがれたということは最初から明らかにされているのに、その罪の内容【※レイプ】がようやく判明するのは最後の最後です。要するに順番として、リンの理性や尊厳を暴力によって奪われたという経験をアイザックがして、そのあとに罪の内容を知る必要があったということでした。純粋に科学的な探究心によってそのまま依頼の実現を目指し続けることは、そうした経験をしたあとのアイザックには不可能だったようです。そんな作劇上の都合のために長大な物語に付き合わされたのかと思うとうんざりしました。

 異端の科学者と翼を奪われた〈鳥人〉の冒険を、唯一無二のスケールで描くダーク・スチームパンク

 《バス゠ラグ》と呼ばれる蒸気機関と魔術学が統べる世界で、最大の勢力を誇る都市国家ニュー・クロブゾン。その中心には巨大駅ペルディード・ストリート・ステーションが聳え、この暗黒都市で人間は鳥人や両生類人、昆虫型や植物型の知的生命体と共存していた。

 大学を辞め、独自の統一場理論の研究を続ける異端の科学者アイザックは、ある日奇妙な客の訪問を受ける。みすぼらしい外套に身を包んだ鳥人族〈ガルーダ〉のヤガレクは、アイザックに驚くべき依頼をする。忌まわしき大罪の代償として、命にもひとしい翼を奪われたヤガレクは、全財産とひきかえにその復活をアイザックに託したのだった。

 飛翔の研究材料を求めはじめたアイザックは、闇の仲買人から、正体不明の幼虫を手に入れる。そのイモ虫は特定の餌のみを食べ、驚くべき速さで成長した。そして、成虫となった夢蛾スレイク・モスが夜空に羽ばたくと、ニュー・クロブゾンに未曾有の大災害が引き起こされた。モスを解き放ってしまったことから複数の勢力から追われる身となったアイザックは、夢蛾を追って、この卑しき大都市をさまようこととなる。翼の復活を唯一の望みとするヤガレクとともに……。

 英国SF/ファンタジイ界、最大の注目作家であるミエヴィルが、あらゆるジャンル・フィクションの歴史を変えるべく書き上げたエンターテインメント巨篇。アーサー・C・クラーク賞/英国幻想文学賞受賞作。(カバー袖あらすじ)

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