『黒いチューリップ』アレクサンドル・デュマ/宗左近訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『La Tulipe noire』Alexandre Dumas,1850年

 カバーあらすじには「黒いチューリップの創造に没頭する青年コルネリウス」とありますし、あまり面白いという評判も聞かなかったので、チューリップ栽培家がひたすら研究を重ねるだけの地味〜な話なのかと思っていました。

 ところが開巻早々、チューリップののどかな雰囲気などまるで感じられない、血なまぐさいリンチがおこなわれます。

 ここから果たしてどうチューリップがからんでゆくのかと思っていたら、リンチで殺されたデ・ウィット兄弟の名づけ子コルネリウス・ファン・ベルルがチューリップを栽培しているという設定でした。黒いチューリップ造りに成功したコルネリウスを妬んだ隣人のアイザック・ボクステルが、デ・ウィットから届いた手紙のことを密告し、コルネリウスは反逆者として逮捕されてしまいます。

 だから、地味といえば地味なのです。主人公はほとんど牢のなかなのですから。牢番の娘ローザと恋に落ち、愛を語り、チューリップは花を咲かせ、獄中とはいえ、順調……? と思われたところに、まんまとライバルを逮捕させたものの黒いチューリップの球根を手に入れることが出来なかったボクステルが、ローザに近づくのです。

 主人公は獄中にあるため、直接的にローザを助けることはできません。読者といっしょに、どうなるのかとやきもきするだけ(^^;。

 そしてクライマックス。黒いチューリップの球根をめぐり、オレンジ公ウィリアムを前にして、どちらが本当の持ち主かを明らかにする場面――当然、コルネリウスはその場にいません。牢屋のなかですから。

 獄中の恋人を救うローザのサスペンスみたいにすれば、もっと面白かったと思うのですが、こういう情けない男というのもまたデュマらしいとも思います。

 風車とチューリップの国オランダ、その片隅で神秘の花、黒いチューリップの創造に没頭する青年コルネリウスは、陰謀にまきこまれていまは断頭台へひかれていく運命にあった。風雲急を告げるオランダ戦争前夜の史実を背景に、大自然の摂理の妙と地上の血なまぐさい係争をめぐって展開する、大デュマ会心の恋と戦乱の雄渾なる一大叙事詩(カバーあらすじより)

  


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