『文豪怪談傑作選・昭和篇 女霊は誘う』東雅夫編(ちくま文庫)

文豪怪談傑作選も、これにて完結のようです。「来訪者」永井荷風 ★★★☆☆ ――その頃頻々としてわたくしを訪問する二人の青年文士があった。木場は蜀山人の狂歌でその集には収載せられていないものを編輯したいと言い、白井は三代目種彦にならった高畠轉々堂主人…

『妖魅は戯る 文豪怪談傑作選・大正篇』東雅夫編(ちくま文庫)★★★☆☆

「たそがれ」「月夜」鈴木三重吉 ★★★★☆ ――私を探していらしったの? 今裏の庭へ出ていたところです。栗の木から、蜘蛛が糸に伝って水に下りました。夕方に蜘蛛が水の上へ下りると屹度だれかが遠くへ行くのだといいます。別れが悪いからと思って、黙っていら…

『夢魔は蠢く 文豪怪談傑作選・明治篇』東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

文豪怪談の完結編はアンソロジー三冊。 「百物語」三遊亭圓朝 ★★★★★ ――内藤新宿に玉利屋と申す貸座敷がございましたが、ここへしげしげ通いました法華寺の和尚が自殺をいたしました。それが夜な夜なこの和尚の妄念が出るというので玉利屋の店の客が減ってま…

『文豪怪談傑作選 幸田露伴集 怪談』幸田露伴/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

「幻談」★★★★☆ ――二日ともちっとも釣れないというのは、客はそれほどに思わないにしたところで、船頭に取っては面白くない。船頭は意地から、舟を別の場所へやりました。「どうも釣竿が海の中から出たように思うが、何だろう」 余裕というか何というか、釣り…

『文豪怪談傑作選 芥川龍之介 妖婆』芥川龍之介/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

「妙な話」★★★★★ ――知っている通り、千枝子の夫は欧州戦役中、地中海に派遣されていた。それが夫の手紙がぱったり来なくなったせいで、神経衰弱がひどくなり出したのだ。ある日、学校友だちに会いに行くと云い出した。――それが妙な話なのだ。停車場へはいる…

『文豪怪談傑作選 太宰治集 哀蚊』太宰治/東雅夫編(ちくま文庫)★★★☆☆

太宰は嫌になるくらい書くことに意識的な作家だったらしく、作家志望の人なら読んで損はないのでしょう。だけど怪談集としては今までで一番がっかりかも。 「怪談」★★★☆☆ ――私は怪談を作ることを愛する。少し不思議なこと(いやむしろ平凡過ぎることかもしれ…

『鏡花百物語集 文豪怪談傑作選・特別篇』東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

泉鏡花が参加した百物語怪談会を中心に編んだアンソロジーです。個人的にはこれまでの特別篇のなかではいちばん楽しめました。 第一部には、喜多村禄郎が体験した、カバーイラストにもなっている怪談が、「怪談精霊祭」「恋物語(抄)」「浮舟」三者三様に収…

『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』室生犀星/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

室生犀星は大好きな作家なので楽しみでした。とはいえ読むのは久しぶり。収録されているのは初期短篇ばかり。「童話」★★★★★ ――「お姉さま、――」小さい弟は何時の間にか石段に腰をかけ、目高をすくっている姉に声をかけた。「お前、いつの間に来たの……よく来…

『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』小川未明/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

童話作家以前の未明を、ということではあるけれど、第一部は「幼年期の幻想」作品だからでしょうか、童話っぽい作品が多い。そのなかでは巻頭の「過ぎた春の記憶」が大傑作。読み終えてみればある型の怪談なのですが、それをこういう視点から語られると新鮮…

『文豪怪談傑作選・特別篇 文藝怪談実話』東雅夫編(ちくま文庫)★★☆☆☆

特別篇の第二弾ということで、「怪談『実話』」のアンソロジーです。 怪談実話だけを寄せ集めて誌上百物語を開こうという試みは面白いけれど、「怪談」としてはよくあるような話が多いのは、「実話」ゆえに仕方がないのか? 実話をめぐって徳川夢声と池田彌…

『文豪怪談傑作選 三島由紀夫集 雛の宿』三島由紀夫/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

せっかくなので怪談としてのみ評価してます。「朝顔」★★★★☆ ――私の妹は終戦の年に腸チフスで死んだ。私は妹を大そう愛していたので、その死は随分とこたえた。妹の死後、私はたびたび妹の夢を見た。夢の中では妹は必ず生きていた。 またびっくりするくらいの…

『文豪怪談傑作選 柳田國男集 幽冥談』柳田國男/東雅夫編(ちくま文庫)★★★☆☆

柳田作品を文芸作品として評価する、というスタンスのもと、『遠野物語』がまるまんま収録されていたりするのだけれど、さすがに『遠野物語』など一部のものを除けば、ほとんどの作品を「文芸作品」と呼ぶのは無理があります。 逆に文芸っぽいものほどつまら…

『百物語怪談会 文豪怪談傑作選特別篇』東雅夫編(ちくま文庫)★★★☆☆

鏡花主催の『怪談会』と雑誌特集『怪談百物語』に、水野葉舟の雑誌に掲載された座談「不思議譚」をプラスしたセット。生に近い実話怪談の雑多な寄せ集めといった『怪談会』に対し、『怪談百物語』は文芸雑誌掲載らしく作品として比較的まとまっているものが…

『文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁』泉鏡花/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

「高桟敷」★★★★☆ ――遥な空に、家の二階があって、欄干もともに目に附いた。けれども二階ではなかった。崖の頂辺から桟橋の如く、宙へ釣った平家なのである。その縁の曲角に、夕視めと云う、つれづれ姿で、絵の抜出したらしい婦がいた。 たたみかけるような怪…

『文豪怪談傑作選 吉屋信子集 生霊』吉屋信子/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

「生霊」★★★★☆ ――菊治は、落葉松の林の奥にぽつんと見えている空別荘に上り込んでリュックサックを下した。(ここへ今晩泊るかなあ、どうせ空いてるんだ)。しばらく滞在しているうちに、初めて人に打突った。「やあ坊ちゃん、いつお見えでした」 ジェントル…

『文豪怪談傑作選 森鴎外集 鼠坂』森鴎外/東雅夫編(ちくま文庫)★★★☆☆

「常談」ファルケ(Gustav Falke)★★★★★ ――ゆうべの事だ。窓を開けて見てゐると、羽の生えた子が一人雪道をよろけて行く。 詩。翻訳だから原作があるとはいえ、鴎外のイメージからは思いも寄らぬファンタジー掌篇。 「正体」フォルメラー(Karl Gustav Vollm…

『文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕』川端康成/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★★

「片腕」と『掌の小説』は新潮文庫で手軽に読めるので知っていました。どちらも好きな作品なのですが、それだけにどういう系統の作品か見当がついてしまう(と思っていた)のでそれほど過度な期待はしてませんでした。いや、失礼いたしました! すごい。怪談…


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